可搬型X線回折計の開発においては,2014年8~9月および2015年3月にエジプトの考古遺跡に持ち込んで出土遺物のオンサイト分析を行った。2014年8~9月の分析の際にはプラスターの顔料同定や石製容器の材質同定に威力を発揮したが,遺跡の不安定な電源状況では動作に支障が生じるというオンサイト分析特有の問題点も明らかとなった。そこで装置の電源部分について改良を行い,3月の分析では遺跡内部での壁画の分析において顔料同定に活躍した。本研究で開発された装置をベースとして,今後も世界最高性能の回折計を目指した改良を進めると共に,近代絵画を中心とした応用を予定している。 絵画の研究に重要な可搬型紫外可視/蛍光分光計の開発においては,蛍光分析用ヘッド部分の大幅な改良を行った。当初は光源として紫外LED(波長365 nm)のみを搭載していたが,今年度から新たに緑色LED(520 nm)および赤色LED(632 nm)を追加した。昨年度から継続して北澤美術館収蔵のエミール・ガレのガラス作品の研究へと応用し,紫外可視吸収測定によって赤~ピンク色ガラスの着色原因として金ナノ粒子を同定した。また,ガレのガラス作品の多くで紫外LED励起による緑色蛍光,赤色LED励起による赤外蛍光が観測され,これらはそれぞれガラス原料中に含まれる微量なMnおよびCrに起因するものであることが明らかとなった。また,本装置も回折計と同様に3月のエジプト調査へと持ち込み,遺跡内での壁画の分析に応用した。特に人類最古の合成顔料とされる「エジプシャンブルー」の分析において,この顔料が赤色光に対する特異的な蛍光特性を持つことを利用して,本装置による蛍光測定により約1秒での迅速な同定が可能であった。エジプシャンブルー以外にも,緑色顔料マラカイトや黄色顔料イエローオーカーなど,様々な顔料の迅速な同定を行うことができた。
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