研究課題/領域番号 |
24350042
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大熊 毅 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50201968)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 触媒的不斉合成 / 不斉シアノ化反応 / 不斉水素化反応 / ケトン / イミン / シアン化化合物 / アルコール / アミン |
研究概要 |
本研究はカルボニル化合物やイミン類の不斉シアノ化反応と水素化反応に対し、世界最高水準の効率と立体選択性を示す触媒の開拓を目的とする。 1.不斉シアノ化:24年度に見いだした複合金属触媒を用い、(1) α位ヘテロ置換ケトン類の不斉シアノシリル化の検討を行った。不斉誘起の源となる光学活性ルテニウム錯体部の構造最適化により、α,α-ジアルコキシケトンやα-モノアルコキシケトンの反応を検討し、基質/触媒比10000、不斉収率99%を達成した。また、β,β-ジアルコキシケトンのシアノ化も高選択的に進行した。(2) α,β-不飽和カルボン酸誘導体の不斉共役シアノ化では、アシルピロール基質に対し、基質/触媒比2000、99%以上の不斉収率で目的のβ-シアノ化物を得た。また、本触媒がシリカゲルカラムで分解しない安定な配位飽和ルテニウム錯体構造をもつことに着目し、(3) 錯体の回収・再利用の検討を行ったところ、基質/触媒比500の条件で、性能を落とすこと無く5回以上の再利用が可能であることがわかった。 2.不斉水素化:24年度の検討結果を踏まえ、(4) 有効な触媒がなかった芳香族γ-ケトエステル類の不斉水素化を、研究者らが開拓したシス型二官能性ルテニウム錯体触媒を用いて行ったところ、94%の不斉収率で生成物が得られた。(5)と(6) 高いエナンチオ選択性と基質一般性の得られていないキノキサリン類とベンゾキサジン類の不斉水素化を、研究者らが開拓したRu-C型二官能性ルテニウム錯体触媒を用いて検討し、99%以上の不斉収率で目的の環状アミン類を得ることに成功した。9400回の優れた触媒回転数も達成した。また、ベンゾチアジンの不斉水素化に初めて成功した。 上記のように、世界最高水準の反応性、選択性、基質一般性を示す不斉シアノ化反応および不斉水素化反応の開拓に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
独自に開拓した触媒を用い、不斉シアノ化および不斉水素化において、世界最高水準の反応性、エナンチオ選択性、基質一般性の獲得に成功した。いずれの反応においても当初の計画以上の成果が得られている。 不斉水素化:Ru-C型二官能性ルテニウム錯体触媒によるケトン類の不斉水素化では、前人未到の毎分35,000回の触媒回転効率を達成した。一般乗用車のエンジン回転速度の10倍以上の速さである。計画では、毎分10,000回が目標であった。N-アリールイミン類の反応においては、シス型二官能性ルテニウム錯体触媒を用い、計画を上回る世界最高の触媒回転数18,000回と完璧に近い不斉収率99%を達成した。Ru-C型触媒を用いるキノキサリン等の環状イミン類の水素化において、世界最高水準の触媒回転数9400回とほぼ完璧な(>99%)不斉収率を達成した。また、この触媒によりベンゾチアジンの不斉水素化に世界で初めて成功し、期待以上に高い基質一般性を確認した。 不斉シアノ化:ルテニウム・リチウム複合金属錯体触媒を用いることで、2000分の1当量の少ない触媒量で種々のアルデヒド類の不斉ヒドロシアノ化が速やかに進行し、99%の完璧に近い不斉収率でシアノ化生成物を得た。従来法では、10~50分の1当量の触媒を必要とし、限られた構造のアルデヒドにしか適用できなかった。期待以上の進展である。α,β-不飽和ケトン類およびアシルピロール型基質の不斉共役シアノ化反応では、1000~2000分の1当量の触媒量で98%~>99%の完璧に近い不斉収率で目的のシアノ化生成物を得ることに成功した。従来法では10~200分の1当量の触媒を必要とする。α,α-ジアルコキシケトンのシアノシリル化でも、10,000分の1当量の少ない触媒を用い、99%の不斉収率で生成物を得ることに成功した。従来最高の触媒活性であり、期待以上の成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究は極めて順調に進行しており、期待以上の成果も得られている。計画変更の必要性は認められない。最終年度となる次年度は、不斉シアノ化および不斉水素化において、研究者独自の複合金属触媒と二官能性触媒を用い、新たな基質に対して高い反応性とエナンチオ選択性の獲得を目指した検討を行う所存である。 不斉シアノ化:本課題のこれ迄の検討で、複合金属触媒がα,β-不飽和カルボニル化合物の不斉共役シアノ化に優れた機能を示すことを明らかにした。そこで、N-カルボニル置換型イミンがα,β-不飽和カルボン酸誘導体と等電子構造をもつことに着目し、イミン類の不斉ヒドロシアノ化(不斉ストレッカー型反応)の検討を行う。また、触媒のX-線結晶構造解析や反応中の核磁気共鳴スペクトル分析による化学種の構造変化追跡等による触媒サイクル解明研究や、α-アミノ酸誘導体等の生理活性物質中間体合成研究を行う。 不斉水素化:これまでの検討結果を踏まえ、α位の置換基に立体的・電子的差異が少なく、従来高ジアステレオ選択的に還元できなかったヘテロ環をもつラセミケトン類のジアステレオかつエナンチオ選択的水素化について検討する。ジホスフィンとジアミンを配位子とする二官能性ルテニウム触媒を用いるが、そのジアミン配位子の窒素上に置換基を導入することで高い立体選択性の達成を目指す。また、核磁気共鳴スペクトルや質量分析による触媒構造解析を行い、水素化反応機構解明に挑戦する。本不斉水素化を鍵反応とする医薬候補品およびその中間体の合成研究を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本課題は次年度が最終年度であり、合成した多数の化合物データ等の収集・解析を行うことになる。多様な構造をもつ化合物の純度や異性体比を迅速かつ正確に決定するには、高性能のクロマト装置による化合物分離、分離データの効率的な収集および解析が必要となる。そこで、本年度の検討に使用した消耗品の一部を別予算から充当し、次年度にガスクロマトグラムおよび液体クロマトグラム分析に用いる各種カラム(消耗品)とクロマト用データ収集システム(物品)の購入を予定した。 上記のように、繰越金をガスクロマトグラムおよび液体クロマトグラム分析に用いる各種カラム(消耗品)とクロマト用データ収集システム(物品)の購入に宛てる。また、積極的に学会等で成果を発表する経費にも充当する計画である。それ以外の経費については、ほぼ当初の計画どおりに執行し、優れた性能をもつ不斉触媒反応の開拓を目指した研究を推進する。
|