研究概要 |
ケイ素上にキラリティを有するキラルケイ素分子は,キラル炭素分子とは大きく異なる性質を有することから,その特性を活用した生理活性物質や機能性材料としての応用が期待されるが,その不斉合成法がごく限られているために入手が困難とされてきた.これに対して本年度の研究では,キラルケイ素分子の効率的な不斉合成法の開発を目指して,ジヒドロシランの不斉非対称化を伴うアルキンとのヒドロシリル化反応の開発を行った.具体的には,酒石酸から誘導したキラルホスホナイト配位子に0価白金種を組み合わせた触媒系を用いることで,種々のジヒドロシランとアルキン類の反応によって,最高86% eeの光学純度で目的とするアルケニルヒドロシランを得ることに成功した.本結果は,キラルアルケニルシラン類を触媒的に不斉合成した初めての例である.さらに本研究では,アルケニルヒドロシランの立体選択的な変換についても検討し,ヒドリド部位をアルケンとのヒドロシリル化によってアルキル基に変換することに,一方,アルケニル部位をオゾン酸化によって酸素官能基に立体選択的に変換することに成功した.また,それらの変換反応を開発する過程で,本研究で得られたキラルアルケニルシランの絶対立体化学を明らかにするとともに,オゾン酸化による炭素-ケイ素結合の酸化的開裂反応が主として立体保持で進行することを明らかにした.これらの研究成果は,従来に無い官能基化されたキラルケイ素分子の不斉合成法として有用である.なお,本研究成果の内容についてはドイツ化学会誌(Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 12745-12748)でその詳細を報告するとともに,その紹介記事が有機合成化学分野の国際情報紙であるSynfacts誌に掲載された(Synfacts 2013, 308).
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,当初予定していた学会参加による情報収集活動よりも実験による研究活動を優先したために,予算案の旅費に比べて使用経費が少なくなり差額が生じた.生じた残額は,次年度の研究報告活動に必要な旅費や,実験に必要な消耗品費として使用する計画である.その他の予算については,当初の予算案に従って使用することを計画している.
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