研究課題/領域番号 |
24350048
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井川 和宣 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (80401529)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | キラルケイ素化合物 / 不斉合成 / エナンチオ選択的β-脱離反応 / 脱水素水和反応 / 立体化学経路 |
研究概要 |
H25年度の研究では,高度に官能基化されたキラルケイ素化合物の効率的な不斉合成法として(1)「シラシクロペンテンオキシドのエナンチオ選択的β脱離反応」を開発することに成功した.また,光学活性ヒドロシランの立体選択的反応の開発について検討し,(2)「パラジウムナノ粒子触媒を用いたヒドロシランの脱水素水和反応」が高立体選択的に進行することを明らかにした. (1)シラシクロペンテンオキシドのエナンチオ選択的β脱離反応:これまでに知られている生理活性キラル炭素化合物の多くには,環状構造が含まれている.これは,環骨格が分子の立体配座を規制し,分子内に配置された官能基の位置を適切に固定することができるためと考えられる.それ故に,これまで環状のキラル炭素化合物の不斉合成研究が膨大に行われてきた.これに対して本研究では,キラルケイ素生理活性物質の開発を指向し,環内にケイ素キラリティーを有する環状キラルケイ素化合物の不斉合成法の開発について検討した.その結果,シラシクロペンテンオキシドの不斉非対称化を伴うエナンチオ選択的β脱離反応を開発することに成功した.本反応は用いる不斉塩基と添加剤の組み合わせが重要であり,アキラルなTMEDAの共存下キラルリチウムアミドをシラシクロペンテンオキシドに作用させることで高収率,高エナンチオ選択的にシラシクロペンテノールが得られる. (2)パラジウムナノ粒子触媒を用いたヒドロシランの脱水素水和反応:ヒドロシランの脱水素水和反応は効率的なシラノール合成法として有用である.本反応を光学活性ヒドロシランに適用した結果,北海道大学触媒化学研究センターの清水先生によって開発されたパラジウムナノ粒子触媒を用いることで,キラルシラノールの高効率的かつ高立体選択的な合成に成功するとともに,本反応の立体化学経路がケイ素上立体反転で進行することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではH25年度までに高度に官能基化されたキラルケイ素分子の効率的な不斉合成法を開発し,H26年度以降からその応用研究に展開することを計画している.その計画に従って研究を推進し,H24,25年度ではそれぞれアルケニルヒドロシランとシラシクロペンテノールの不斉合成法の開発に成功した.これらの新規キラルケイ素化合物はさらに多様な変換が可能な官能基を有していることから,ケイ素キラリティーを有する生理活性物質や機能性材料を開発する際のキラルプールとして有用である.
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今後の研究の推進方策 |
H24,25年度の研究においてケイ素不斉アルケニルヒドロシランとケイ素不斉シラシクロペンテノールの不斉合成法の開発に成功した.そこでH26,27年度はそれらキラルケイ素分子の更なる変換について検討し,ケイ素キラリティーを有する機能性材料や生理活性物質の開発研究に展開する.具体的には,ケイ素不斉アルケニルヒドロシランをポリマーの単量体や修飾剤として活用し,新しいキラル高分子材料の開発を目指す.また,ケイ素不斉シラシクロペンテノールの五員環骨格にさらにヘテロ官能基やアルキル側鎖を導入することで,糖やプロスタグランジン様の構造を有するキラルケイ素化合物を不斉合成し,それらの生体機能について精査する計画である.
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度に研究が大きく進展したことから,その研究成果をH26年の8月にベルリンで行なわれるThe 17th International Symposium on Silicon Chemistryで報告する予定である.その渡航費が必要となることから,基金の一部を繰り越した.また,H26年度以降の研究では,キラルケイ素化合物の応用展開を開始する計画である.そのためには,高分子材料の物性分析や光機能解析,また生理活性試験などに必要な機器・消耗品類の新規購入と,依頼分析のための経費を拡充する必要が生じるために次年度に基金の一部を繰り越した. The 17th International Symposium on Silicon Chemistryでの研究発表(旅費,参加費):40万円,機器,消耗品の購入費:53万円,依頼分析費:20万円
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