これまで開発してきた、光照射による有機テルルを用いたリビングラジカル重合法と、これで合成した重合体の光カップリング反応では、前者が極めて弱い光源を用いてラジカル濃度を押さえる必要があるのに対し、後者ではある程度の強い光源を用いてラジカル濃度を上げる必要があった。これらのことから、有機テルル化合物が極めて高い光活性を持つことが定性的に分かっていたが、その定量化はなされていなかった。そこで、光活性化の定量化を行うと共に、有機テルル化合物の構造と光活性との相関を明らかにした。さらに、光重合反応の合成的有用性も明らかにした。 ポリメタクリレートの重合末端モデル化合物である、2-フェニルテラニル―2-メチルプロピオン酸エチルエステルの量子収率を求めたところ、0.79と極めて高いことがわかった。さらに、2-メチルテラニル、および2-ブチルテラニル―2-メチルプロピオン酸エチルエステル、2-フェニルテラニルプロピオン酸エチルエステル、フェニルテラニル基を成長末端に持つポリブチルアクリレートの紫外可視吸収について比較したところ、いずれも極大吸収波長は360 nm付近であり、有機テルル化合物の構造にほとんど影響されないことがわかった。一方、テルル上の置換基(フェニル、ブチル、メチル)については、フェニルテラニル体がブチルおよびメチルテラニル体よりも約2倍の吸光係数を持つことがわかった。 さらに、光TERPでは活性化に熱が必要ないことから、低温で重合を行える特徴がある。これを活かすことで、アクリレートの高温での重合で問題となる、バックバイティング反応を完全に防ぐことができること、および、高温では不安定なイソシアノ基を持つモノマーの重合の制御にも成功した。
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