研究課題/領域番号 |
24350064
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
黒田 玲子 東京理科大学, 総合研究機構, 教授 (90186552)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 結晶工学 / キラリティー / 結晶多形 / 超分子 |
研究概要 |
医薬・農薬・食品業界等での応用、生命の起源の謎の解明に向けて、左右一方の分子だけを得る手法の確立と、その背景にある科学を確立することを目的としている。conglomerate結晶の水溶液slurryを攪拌するだけでキラリティーが100%一方に偏る驚くべき例が最近、報告されその真偽を巡って議論を呼んだが、この現象を適用するには、化合物がキラル結晶を生成することが前提条件である。しかし、化合物の9割はラセミ結晶を生成する。当研究では通常ラセミ結晶を作成する化合物のキラル結晶の作成とキラル増幅を、ユニークな結晶化過程で達成し、その根底にある科学を明らかにすることを目的としている。 当該年度には、置換基によってキラル結晶ないし、アキラル結晶を作ることを見つけていた化合物2-(p-or o-substituted- arylthio)- 3-methyl-2-cyclohexen-1-ones (置換基 = CH3(1), Cl(2), Br(3))に加えて、F-誘導体、I-誘導体を合成した。I原子はスピン軌道カップリング定数がBr原子に比べてさらに大きいために、結晶光反応の立体選択性に与える影響を比較する目的もある。p-I体は多形を示し、結晶→結晶転移を起こすこと、多形によって固体光反応の立体選択性が異なる可能性が示唆された。また、過冷却融液を用いることで、p-Cl体は、キラルなp-Me体の種結晶により、キラルな結晶を効率よく生成することを見出した。さらに、このようにして誘導されたキラル結晶が、わずかな機械的刺激でアキラル結晶に結晶→結晶転移を起こすことも発見した。これ以外にも置換基の違いにより固体状態のCD、CPLの符号までもが大きく変わる超分子結晶系を見つけ、新しい知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2-(p- or o-substituted- arylthio)- 3-methyl-2-cyclohexen-1-ones (置換基 = CH3, Cl, Br、F, I)を対象としてきた。これまで過飽和溶液、超過飽和溶液への種結晶導入により、アキラルな結晶のキラル結晶化に成功しているが、H25年度最後に、過冷却融液を用いることで、より優れたキラル結晶誘導が可能であることを見出した。 p-I体の多形結晶の結晶→結晶転移、結晶内パッキングの立体選択性に与える効果など、新しい展開が示唆された。年度末に再び実験室の引越しを余儀なくされたが、滞りなく研究を推進できた。
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今後の研究の推進方策 |
結晶化という、化学反応を要しない簡単なプロセスで、左右一方の分子のみを選択的に得る手法とその根底にある科学を確立することを目指している。当初の研究計画に従って、着実に研究を進めていく予定である。結晶化手法として、従来の種々の溶媒を使った溶液からの結晶化だけではなく、飽和、過飽和、超過飽和、融解体、過冷却融液、結晶共粉砕、ジェル状態などを行う予定である。特に、前年度最後に新しく発見した現象を詳しく解析し、現象の根底にある科学を探り、今後の展開につなげたい。誘導されたキラリティーの増幅、固体光反応によるキラリティーの固定化、結晶構造と反応の立体選択性の関係も探る予定である。 解析手法としては、単結晶X線構造解析、粉末X線結晶構造解析、示差走査熱量測定、融点測定、固体キラル分光、定量的HPLC、NMR分光法などを駆使する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
X線管球が間もなく切れる兆候があるという警告を業者から受けたが、なんとか持たせることができた。そのための予算の一部を来年度に回した。 X線管球が切れた場合、752,760円が必要なので、その一部にあてる予定である。
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