研究実績の概要 |
分子が右型か左型かで薬効、味、香りなどが異なるために、左右一方の分子だけを得る手法の確立は、製薬、食品業界などにおいても、生命の起源を理解するうえでも、重要である。本研究テーマでは、結晶化過程によって左右一方の分子だけを得る手法の開発と、その背景にある科学を探求することを目的としている。conglomerate結晶の水溶液slurryを攪拌するだけでキラリティーが100%一方に偏る驚くべき例が最近報告されその真偽を巡って議論を呼んだが、この現象を適用するにしても、化合物がキラル結晶を生成することが前提条件である。しかし、化合物の9割はラセミ結晶(左右同数を含む)を生成する。当研究では通常ラセミ結晶を作成する化合物のキラル結晶の作成とキラル増幅を、ユニークな結晶化過程で達成し、その根底にある科学を明らかにすることを目的とした。 当該年度には、置換基によってキラル結晶ないし、ラセミ結晶を作ることを見つけていた化合物、2-(p- or o-substituted arylthio)- 3-methyl-2-cyclohexen-1-ones (置換基 = CH3, F, Cl, Br、I)の中で、特に、o-I-誘導体、p-Cl-誘導体について研究を進めた。p-Cl誘導体は、通常はラセミ結晶を生成するが、過冷却融液にキラルなp-CH3-誘導体の種結晶を導入することにより、100%のキラリティー転写でキラルな結晶を生成することを見出し、その原因を探った。さらに、このようにして誘導されたキラル結晶が、わずかな機械的刺激でアキラル結晶に結晶→結晶転移を起こすことを昨年度末に発見していたが、DFT計算による構造の安定性の違いなどを考察した。これ以外にも結晶状態でのみ現れるキラリティー、超分子結晶によるゲスト分子の離脱などを結晶状態のCD、構造解析等で追跡し、新しい知見を得ることができた。
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