本研究では、光・磁場・渦運動により誘起される分子キラリティーに基づく新規キラル科学の開拓を目的としている。 具体的には、生体分子や光合成細菌の磁気キラル二色性を測定し、①生命のホモキラリティーと磁気キラル二色性の関係解明、②新規不斉合成法の開拓等を行った。また、エバポレーター回転で生成するキラルJ会合体を様々なスケールで解析することで、①渦運動と超分子ナノキラリティーの関係解明、②キラルJ会合体を不斉場とした単分子の光学活性誘起等も試みた。 今年度は、励起子キラリティーに由来する磁気キラル二色性に関して、理論的解析を行い、その起源を明らかにした。これらに関する研究成果の一部は、Dalton Transactions、OPTICAL MATERIALS EXPRESSに掲載された。また、本(Advances in Multi-Photon Processes and Spectroscopy)のChapterとして執筆した。光合成細菌についても磁気キラル二色性測定を行い、CD信号、MCD信号が強い領域において、信号を観測することに成功した。 さらに、渦運動で誘起されたキラルJ会合体を不斉場とすることで、軸配位により面不斉が誘起されるフタロシアニン錯体の光学活性が誘起されることを明らかとした。また、cmオーダーのエバポレーター回転で生じる渦運動が、どのようにnmオーダーの分子キラリティーを誘起するかを明らかにするために、回転方向及び回転速度が変更可能なエバポレーターとマグネティックスターラーを融合させた新規装置を開発した。これにより、鉛直方向の回転の影響を評価することを可能とした。この成果は、日本化学会春季年会にて発表した。 これらの研究を遂行することで、光・磁場・渦運動を利用した新規不斉合成法を開発することに成功し、生命のホモキラリティー解明への手掛かりを得ることができた。
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