研究課題/領域番号 |
24350082
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
尾高 雅文 東京農工大学, 大学院・工学研究院, 准教授 (20224248)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酵素反応機構 / 金属酵素 / 構造生物学 / 時分割結晶構造解析 / 中性子構造解析 |
研究概要 |
1.ニトリルヒドラターゼ(NHase)の触媒反応の時間分割X線結晶構造解析。 kcatが約2%に低下する変異体βR56KNHaseを用いて、tert-butyl nitrile(tBuCN)の水和反応を解析した。βR56KNHaseをニトロシル化して不活性化したものを結晶化し、暗所でtBuCNを添加した後、光照射で酵素を活性化し、結晶内で触媒反応を行わせた。一定時間、光条件下で反応させた後、結晶を凍結して反応を停止させ、結晶構造を決定した。反応時間5-120分で解析した結果、tBuCNは反応開始後50分までに非ヘム鉄反応中心に配位したが、その電子密度の形状は基質ではなく、生産物のtert-butyl amideに酷似していた。また、アミド基の酸素原子となる電子密度と酵素のシステインスルフェン酸配位子の酸素原子間の距離は0.7Aであり、両者は同一原子であると考えられた。すなわち、非ヘム鉄中心に配位した基質のニトリル炭素をシステインスルフェン酸配位子の側鎖酸素原子が求核攻撃するという新奇反応モデルを反応中間体の構造に基づいて提案した。 2.類縁酵素であるチオシアネートヒドロラーゼ(SCNase)とNHaseの基質認識機構の違い。SCNase基質ポケット深部に側鎖をもつ二つのArgをNHaseの相当するアミノ酸に置換した変異体(βR90F,γ R136W)SCNaseを解析した。いずれの酵素もSCNase活性を消失し、弱いNHase活性を示した。γR136WSCNaseの結晶構造を決定したところ、γArg136の置換によって、ポケットのサイズが大きくなり、ポケット表面の正電荷がやや減少していた。以上の結果から、SCNaseにおいては、基質ポケットが小さく、ポケット上部に存在するこれらのArg残基によって、負電荷の基質が捕捉されることが触媒活性に重要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間分割X線結晶構造解析により、酵素基質複合体と思われる反応中間体の結晶構造を決定することができ、反応中間体の立体構造に基づく反応機構を世界で始めて提唱することに成功した。今後、提唱したモデルと生化学的に検証することで、反応機構の核心に迫ることができると期待される。一方で、もう一つの鍵である中性子構造解析に関しては、未だ、良質な結晶を作成中であるため、今後、精力的に進めて行く必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
時間分割X線結晶構造解析の結果に基づいて提唱した反応モデルを安定同位体を用いて触媒反応を追跡することにより、検証する。一方、中性子構造解析に適用可能な良質な大型結晶の作製を集中して行い、ニトリルヒドラターゼの中性子構造解析を試みる。
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