研究課題
1. ニトリルヒドラターゼ(NHase)の触媒反応のFTIRによる解析昨年の結果から、基質ニトリルが金属に配位した後、αCys114-SOHの-SOH基がニトリル炭素を求核攻撃し、環状中間体を形成することが分かった。残る課題は中間体を水分子が求核攻撃し、生産物の解離と-SOH基の再生が起こるメカニズムである。これを明らかにするため、今年度はH2(18O)中で触媒反応をさせた酵素のFTIR解析を行った。その結果、触媒反応後の試料では、Cys-SOHのS-O間の振動に相当するピークの波数が26cm-1減少しており、これは16O→18Oの交換が起こったときの理論値の変化(31cm-1)に良く一致していた。この結果から、環状中間体の形成後、水分子が-SOH基に由来するS原子を求核攻撃することで、基質が解離し、-SOH基が再生されると考えられた。2. ニトリルヒドラターゼ(NHase)の触媒反応の時間分割X線結晶構造解析昨年度に引き続き、触媒活性の低下した変異体βR56Kの結晶中におけるpivalonitrile水和反応のX線結晶構造の時間経過を解析した。本年度は10分ごとに700分まで反応させたときの構造を決定したところ、50分以降700分まで構造変化は見られなかった。従って、結晶中では、上記の環状中間体の形成以降、変化しないことが予想された。50分で得られた環状中間体の構造を詳細に解析したところ、βLys56の側鎖アミノ基とαCys114-SOHの側鎖-SOH基に水素結合する水分子が反応の時間経過に伴って僅かにβLys56側に移動していること、また、この水分子はαCys114-SOHの側鎖S原子に最も接近している水分子であった。これらのことから、この水分子がαCys114-SOHの側鎖-SOH基を求核攻撃する可能性が考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度の時間分割構造解析の結果から、基質の結合様式ならびに反応中間体の結晶構造を1.2Åの高分解能で決定することができた。その結果、基質の配位後に酸化修飾を受けたシステイン配位子が求核攻撃をして環状中間体を形成することを明らかにした。25年度は、安定同位体18Oラベルした水中での反応をFTIRで解析することと昨年度の構造を詳細に解析することにより、βLys56の側鎖アミノ基とαCys114-SOHの側鎖-SOH基に水素結合する水分子がαCys114-SOHの側鎖-SOH基を求核攻撃することで、基質が解離し、-SOH基が再生される可能性示した。これらの結果から、反応中間体の結晶構造に基づく反応モデルを提唱し、NHaseの触媒反応機構をほぼ明らかにできたと考えている。本成果は当初の計画を上回るものであり、予想以上の達成度に至っていると考えている。
反応モデルを構築できたことから、今後は以下の3点に絞って研究を行う。1.質量分析による、H2(18O)取込の確認 25年度はFTIRによるH2(18O)取込の確認を行ったが、この手法では、18Oの検出を振動数変化による間接的な検出法で確認している。より明確な手法として、生産物とαCys114-SOHの側鎖-SOH基への18Oの取込を質量分析によって確認する必要がある。現在の反応モデルでは、H2(18O)中で触媒反応をさせた場合、基質へのO原子の取込は、1サイクル目では16Oが取り込まれ、2サイクル目以降では18Oが取り込まれることになる。従って、反応サイクルを追って生産物への取込を測定する必要がある。このため、触媒速度の低下したβR56Kを利用して、行う。-SOH基への18Oの取込に関しては、-SOH基は不安定であるため、触媒反応後、酵素を安定なニトロシル複合体にして質量分析を行う。2. 中性子構造解析 αCys114-SOHの側鎖-SOH基のイオン化状態や水和水を含む水素結合ネットワークの解明はNHaseの反応機構の解明に不可欠である。中性子構造解析を遂行することにより、側鎖-SOH基のイオン化状態や水和水を含む水素結合ネットワークを明確に理解する。3.理論計算 25年度までの研究で得られた構造と反応モデルを理論計算で検証し、触媒反応機構モデルの妥当性を確認する。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件)
J Am Chem Soc.
巻: 135 ページ: 3818-3825
10.1021/ja307735e.
J Biosci Bioeng.
巻: 116 ページ: 22-27
10.1016/j.jbiosc.2013.01.013.