研究課題/領域番号 |
24350085
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
一二三 恵美 大分大学, 全学研究推進機構, 教授 (90254606)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インフルエンザウィルス / 抗体酵素 / 感染抑制 |
研究概要 |
平成25年度は、スーパー抗体酵素ライブラリーを発現・精製してin vitroのスクリーニングを進めてきたが、一連の過程に於いて、精製のロット差が大きくなるケースや、発現そのものが困難になるケースが認められた。そこで、以下の3項目について検討した。 1、精製方法の改良:各クローンの精製と評価を進める中で、スーパー抗体酵素はmonomerと比較してdimerの方が酵素活性は高いこと、表面電荷の異なるdimerが存在することが分かった。その割合は精製の再現性を低くする要因となるため、表面電荷の均一化を試みることとした。その方法はいくつか考えられるが、以前から、スーパー抗体酵素酵素活性に対する金属イオンの影響を示唆するデータが得られていたことから、精製過程で金属イオンを添加してインキュベーションする方法を検討した。これにより、dimer化の促進と同時に、表面電荷を揃えることが可能となり、精製ロットのばらつきが大幅に改善出来ると同時に、収量が増加した。 2、発現方法の検討:ライブラリー作製やその後の発現において、まれに大腸菌の菌体が育たない現象が認められた。インフルエンザウィルスに体するマウス重鎖型スーパー抗体酵素のJN1-2は、軽鎖と同じ長さのVH+CH1ドメインとして発現させると菌が全く生えず、重鎖全長を発現させると大腸菌は育つが完全な封入体として発現された。そこで、定常領域部分をヒト型に置き換えたキメラ型の作製や、封入体からのリフォールディングを試みた。 3、各種評価試験:ライブラリーや上述のキメラ型スーパー抗体酵素について、プラークアッセイによるin vitro感染抑制試験を行い、効果を認めたものについては、アミダーゼ活性試験やヌクレアーゼ活性試験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、in vitro感染抑制試験によるスクリーニングで良好な結果を得たクローンについて、外部発注分析によるin vivo実験を行う計画であった。しかしながら、外部発注分析が進めらない事情が発生したことと、取り扱うクローンの増加に伴って、発現や精製段階で生じるロット差についての知見や傾向が蓄積されてきたことから、当初の計画を一部変更して、精製方法の改善に注力した。表面電荷を揃えることが出来る様になり、ロット差が大幅に改善したことで、評価試験の効率が上がると同時に、クローンの特徴をより明確にとらえることが出来る様になった。また、point mutationによる活性サイトの検出も、効率的に実施可能となった。 また、当初はin vitroの感染抑制効果を示すクローンが見出せない場合に実施を計画していたマウス型スーパー抗体酵素のマウス-ヒトのキメラとして、あるいは重鎖の部分タンパク質としての発現・精製を開始した。マウス- ヒトキメラ重鎖の作製は、実用化を見据えた時に必ず必要になる検討であり、部分タンパク質としての発現は、構造と機能の関係を明らかにする上で必要になる(現在、進行中)。 従って、当初計画を一部変更しているが、全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1、ヒト型軽鎖ライブラリーを用いたスクリーニング:現在までのところ、インフルエンザウィルスの感染抑制効果を示すクローンは得られているものの、実用化にはより高い効果を有するクローンの取得が必要であることから、ライブラリー化したクローンの発現・精製とスクリーニングは、継続して実施する。 2、作用機序の解析:既に得られているクローンについて、ウィルスとの免疫学的反応性や、ウィルスタンパクを用いた分解実験、アミダーゼ活性試験、ヌクレアーゼ活性試験などを行い、ウィルス上の標的部位を明らかにする。一方、スーパー抗体酵素については、point mutationによる変異導入を行って、活性部位の同定を進める。 3、プラークアッセイの改良:スーパー抗体酵素クローンの均一化に成功し、ロット差が少なくなったことで、in vitro感染抑制試験として実施しているプラークアッセイのバラツキが予想よりも大きいことが分かってきた。インフルエンザウィルスは一連の作業中にダメージを受けやすいウィルスであるため、小さな取り扱い方法の差が影響していると考えられる。そこで、スーパー抗体酵素とのインキュベーション液に添加する安定化剤の種類や濃度、あるいはウィルスストック作製時の凍結方法などの改善を行う。 4、in vivo感染抑制試験:in vivoでの効果を客観的かつ正確に評価するためには、この種の実験を専門に行っている外部機関への外部発注が望ましい。そこで、関係箇所との調整を行ってこれを実現させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、初期のin vitroスクリーニングで有効性を認めたクローンに対するin vivo実験を専門機関への外部発注の形で実施する計画であった。しかしながら実施困難な状況が発生したために、実験計画を変更して、今後のスクリーニングや評価試験が効率的に実施出来る様に、発現や精製などの基礎的な検討を行った。これらの検討に必要な機材は既に揃っており、試薬も比較的安価なもので良いため、次年度以降の実験に備えて主に物品費を繰り越した。 H26年度はH25年度に実施した基礎的な検討の成果により、in vitro実験や機能解析により重要度の高いクローンの選択が可能となる。これに伴い、当研究室では取り扱うことの出来ない型のインフルエンザウィルスに対する効果を検討しなければならない。これは専門機関への外部発注で実施する必要があるので、H25年度に繰り越した予算(物品費)をこれに充てる計画である。また、本年度から学生数が減少するので、着実に計画を遂行するために、ポスマス研究員の雇用を計画しており、130万円を人件費として使用する計画である。
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