研究課題/領域番号 |
24350089
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (50388758)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グラフェン / DNA / 相互作用 / リガンド / 吸着 / バイオセンサー |
研究概要 |
高感度バイオセンサーの開発に有用なマテリアルとして、グラフェン酸化物(以下GOと記す)が注目されている。しかし、GOをはじめとする固体の基板表面は、溶液中の均一な理想環境とは著しく異なる分子環境にある。このような非理想状態にあるGOと生体分子の結合特性や、GO表面に吸着することで分子が密集した状態における生体分子の物性に関する定量的解析は検討例がほとんどない。そのため、GOを用いたバイオセンサーの合理設計指針は存在しない。 そこで本研究では、GOナノ表面に対する生体分子の吸着・脱着機構を決定し、非理想環境におけるDNAの挙動を解明することに取り組んでいる。さらに、得られた定量的諸量を活用して、細胞のがん化に関与するテロメアDNAが形成する四重らせん構造に対するリガンドの取得に必要なスクリーニングシステムを開発することも目標としている。 平成24年度には、標的としているテロメアDNAの非理想環境下での構造や熱力学的安定性に関する知見を得た。また、GOを用いた各種バイオセンサーの構築も行った。そこで平成25年度には、非理想状態においてテロメアDNAが形成する四重らせん構造とリガンドの結合挙動の解明や、リガントのスクリーニングシステムの構築に必要な機能性分子の取得を試みた。その結果、非理想環境で活性を保持するために有用な相互作用様式を見出すことに成功し、非理想環境下における機能性分子の設計指針を提示できた。この成果は、米国化学会発刊の、J. Phys. Chem. Bの表紙として掲載された。リガンドスクリーニングシステムに関しては、システム開発の要となる、四重らせん構造に特異的に結合し蛍光を発光する分子を取得できた。蛍光分子はGOを用いたバイオセンサーにおいて最も汎用性が高いことから、目標とするスクリーニングシステムの開発に目処がついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては、(1)非理想環境におけるテロメアDNAの物性に関する知見、(2)非理想状態でも活性を保持する機能分子の設計指針、(3)リガンドスクリーニングシステムの開発に必要となる蛍光分子の取得、(4)GOを用いたバイオセンサーの開発、を達成し、その成果を発表した。その他にも、グラフェンと生体分子に関する総説や、非理想環境におけるDNAの物性に関する総説を刊行した。さらに、研究最終年度に向けて、GOを用いたバイオセンサーの高感度化や、GOナノ界面に対するDNAの吸着と脱着挙動に関する定量的知見も蓄積していることから、当初の研究計画通りにおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度には、GOナノ界面に対するDNAの吸着と脱着挙動を熱力学的・速度論的に解明することを目指す。熱力学的解析に関しては、吸着挙動と脱着挙動ともに多くの知見が得られている。そこで、平成26年度には、速度論的解析を進める予定である。特に、本申請課題で購入した迅速混合装置は、速い反応速度を示す吸着挙動の解析に威力を発揮する。また平成25年度の成果として、DNAの形成する二次構造に依存した吸着機構の存在が示唆されている。そこで平成26年度には、この機構の解明を目指して、系統的に実験を遂行する。また、リガンドスクリーニングシステムに関しては、平成25年度内にスクリーニング系の立ち上げまでを完了していることから、本年度には、これまでにない新規リガンドの取得を試みる。GOと生体分子の相互作用機構とDNA四重らせん構造のリガンドの取得は、各々が広範な展開研究にも直結することから、多くの研究者が参画しつつある。このような研究環境の中で、スピード感を持って研究を遂行することが課題であると言える。 また、研究最終年度として、これまで得られた成果を、学術論文誌や国内外の関連学会にて積極的に公表することを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
GOとDNAの吸着・脱着挙動を解明する実験系では、DNA鎖に蛍光団を化学導入する必要がある。極めて多種のDNA鎖を用いて検討を進める予定であったが、系統的に実験検討を進めたところ、当初の想定よりも少量のDNA鎖の使用によって良好な結果が得られた。また、DNAの四重らせん構造リガンドの取得に関しても、医薬品や蛍光分子などを多数検討する予定であったが、入念な文献調査の結果、候補となる分子種を当初よりも大幅に絞り込むことに成功した。このように、当初の予定よりも順調に研究が進展したため、試薬やキットの部品費や人件費を抑制することが可能となり、未使用額が生じた。 理由の項に記したように、最終年度に成果としてまとめるべき知見が多く得られている。これらの成果報告を、論文投稿や国際会議で行いたいと考えている。そのための、投稿料、英文校正費、旅費などとして使用することを計画している。また、当初の予定に加えて、GOを用いたバイオセンサーの高感度化にも取り組むなどして、本研究成果の波及効果をさらに拡張することも試みる。これらに使用する試薬や各種アッセイキットの購入のためにも使用したいと考えている。
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