研究実績の概要 |
高性能な有機薄膜太陽電池を実現するために、製膜性が良く、また大きな開放光起電力(Voc)を得る目的で、一連の新規ドナー材料Thieno[3,4-b]thiophenebenzo[1,2-b:4,5-b0]dithiophene-Based Polymers(PTB-F)を創製した。このPTB-F系ドナー材料において、フッ素基の導入率(r)を大きくするにつれて予想通りに最高被占軌道の準位が深くなったものの、r=1では溶解性の低下のために製膜性が幾分低下した。このr値と逆型素子(ITO/ZnO/PTB-F:PCBM/PEDOT:PSS/Au)の電池性能との相関を調べるために、これらPTB-F系ポリマーとフラーレン誘導体PCBMとのブレンド膜(PTB-F:PCBM)の正孔移動度測定、原子間力顕微鏡(AFM)によるモルフォロジー観察、及び微小角入射広角X線回折(GIWAX)による配向・結晶化度測定を行った。AFMによる表面観察から、r値の増加に伴いPTB-F系ポリマーとPCBMのドメインサイズが減少し、電荷分離界面の増加を示唆する結果が得られた。一方でGIWAX測定から、r値の増加に伴い結晶化度の減少が観察され、同時に正孔移動度も小さくなる結果となった。これら相反する因子の兼ね合いから、r=0.75であるPTB-F75のときに最適のエネルギー変換効率(PCE)4.3%を示した。高性能化に対する別のアプローチとして、市販ドナー材料PTB7を用いた逆型素子を大気中作製し、PCE 5.0% (Jsc 11.6 mA cm-2, Voc 0.78 V, FF 0.55)を得た。また、擬似太陽光を25時間連続光照射してもほとんど減衰しない高耐久性素子の開発に成功した。さらに、発電層製膜時に1%のニトロベンゼンを添加したクロロベンゼン溶媒を用いることで、PCEが5.9%まで向上した。
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