本研究の目的は一次元構造に加工した分子ワイヤを用いて多値理素子を開発することにある。ここでは閾値電圧の異なる複数の分子ワイヤをトランジスタチャネルとしてこらを共通のソース・ドレイン電極に接合した多チャンネル分子ワイヤトランジスタとなっていることを特長とする。この目的を達成するための基礎技術としてワイヤ構造の加工技術の確立とトランジスタの特性評価に注力した。 有機半導体材料としては液晶性を示すポリフルオレン系の有機半導体(F8T2)から取りかかり、これをナノインプリント法で一次元ワイヤ状に加工した。加工する際の温度や圧力、加工時間を最適化した結果、ワイヤ径の狭線化に伴い高分子鎖の配向が向上することを見出した。これは誘導自己組織化と呼ばれる高分子材料の配向現象が半導体系の材料にも適用されることを初めて示した成果と言える。さらに高分子鎖の高配向化の結果としてトランジスタの電荷移動度を30%向上させることに成功した。 さらに高分子鎖の精密制御を目指して高分子半導体材料を結晶性の高いポリチオフェン系(P3HT)に変更して同様の実験を実施した。ここでは特に高分子鎖長を系統的に変化させたものを合成し、ワイヤ径と高分子鎖長の相関関係の明確化と高結晶化へ向けた条件最適化に取り組んだ。その結果、ワイヤ径と高分子鎖長が同程度になると高配向化が促進されることを見出した。特にワイヤ径が50nm以下となるとその傾向が顕著となることも分かった。これらの成果は当課題の基礎的知見と技術を与えるだけでなく、高分子材料を使ったナノスケール電子素子の作製の可能性を示すものとなっている。
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