これまで、タンパク質/DNAネットワークを用いて、分子系ナノ電気伝導計測において確率共鳴現象を見出してきた。確率共鳴現象は、神経細胞の発火現象と関係が深く、神経ネットワーク様の情報処理の第一歩として重要である。しかし、基本的にセンシングに関わる現象であり、確率共鳴現象だけで論理演算が行えるわけではない。論理演算を行うためには、積和機能が必要であり、情報の重ね合わせを行うことが必要である。 そこで、2014年度から、積和機能を担う分子として、多段階の酸化還元が可能な分子系の探索を開始した。その中でも、取り扱いが行いやすく、安定な分子として、ポリオキソメタレート(POM)に注目した。POMは電子受容体として、電極表面修飾や触媒に広く使われているが、ナノスケールにおける電気伝導特性は明らかではない。 サイズが大きく取り扱いの容易なドーンナツ型のPOMであるMo154-ringの単分子層ナノネットワークを形成し、100nm程度のギャップ幅を持つナノ電極による電気特性計測を行った。POMは水溶性であり、プロトン伝導も報告されていることから、試料に残留した水による影響があると考えられる。実際、試料形成後に高真空チャンバーに入れたところ、はじめの3-4日間は電気伝導特性が大きく変化することがわかった。時間の経過とともに、電流の絶対値が減少するとがわかった。この変化は、インピーダンス測定にも顕著に反映され、コールコールプロットは、初期は2成分の伝導を示すが、高真空中に放置することで、1成分に変化することがわかった。初期には、プロトン伝導と電子伝導の両方が観測されるが、高真空中で放置することにより、電子伝導だけが残ることがわかった。 電流-電圧特性にはゼロバイアスコンダクタンスがあり、電流-電圧特性は電子注入が容易であるPOMの特性をよく反映した電荷制限トンネリングモデルで解析できたが、多段階の酸化還元が関与する特性は得られなかった。
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