研究概要 |
固体表面と生体分子の相互作用解明は、細胞培養、再生医療、バイオセンサーなどにおいて重要である。本研究では、酸化物単結晶とグラフェンの表面におけるタンパク質分子の吸着動態を解明することを目的とした。また、その応用として、溶液中で生体分子を選別して検出する生体分子ゲートデバイスの実現へ向けた基礎技術の構築を目指した。 酸化物単結晶においては、生体親和性の高い酸化チタン表面の応用へ向けて、すでに実績のあるサファイアと同様のドメイン構造形成を試み、形成条件を明らかにした。また、タンパク質の構成要素であるペプチドの吸着選択性を明らかにした。グラフェンは貼り合わせる支持基板の性質によって表面の特性を制御することができる。支持基板表面への自己組織化単分子膜形成により、正負の電荷をもつ親水性表面と疎水性表面を作製し、貼り合わせたグラフェン表面の化学的性質を制御し、タンパク質吸着を調べた。その結果、タンパク質の凝集・脱離に顕著な差異が発見され、基板表面によるグラフェン表面の物性制御が有効であることが示された。これらの研究では、グラフェンを貼り合わせるときの基板表面の吸着水制御(T. Ogino et al., J. Phys. Chem. 116, 2012, 10084)と表面電位評価(T. Ogino, et al., J. Col. Interface Sci., 361, 2011, 64)の重要性が認識されていたので、前者の精密制御のための真空型グローブボックスと、後者の評価のためのポテンシオガルバノスタットを購入した。 分子ゲートデバイスにおいては、分子ゲートをビーズが通過するときの溶液中のイオン電流計測を進め、圧力差による通過に対しては明瞭な電流ドロップが認められるが、溶液中の電位差だけでは十分な数のビーズ通過を得るのは困難であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
固体表面と生体分子の相互作用については、これまでドメイン構造を発現する酸化物表面と、基板表面の性質によって制御されたグラフェン表面とを用いてきた。またターゲットとして主としてタンパク質分子を用いてきた。今後の研究の柱として、一つは細胞の基本骨格である脂質分子と固体表面の相互作用について重点的に取り上げる。方法として、脂質の自発展開により単層膜から多層膜まで各種の膜形成が可能なことが判っている(K. Yokota, T. Ogino, et al., Jpn. J. Appl. Phys., 53, 2014, 05FA11、等--本論文は2014年4月以降に出版されたためリストには未記載)。また、ベシクル融合については十分な実績をもつ。これらの手法を用いて、各種制御された固体表面とグラフェン表面における脂質分子膜との相互作用を解明する。酸化物基板については、従来のサファイアと酸化チタンに加えて、自発分極をもつ酸化物強誘電体も試みる。 平成26年度の重点項目は分子ゲートデバイスの実現である。この標的として、近年急速に関心の高まっているエキソソーム(直径100nm程度のベシクル)を取り挙げ、そのモデルとしてビーズまたは脂質二重膜からなるベシクルのゲート通過検出と、ゲートへの機能付与による通過選択性とを実現する。最終的には、分子ゲートと固体表面検出器からなる生体分子認識機能を備えたバイオセンサーを実現する。
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