研究課題/領域番号 |
24360014
|
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
安井 寛治 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (70126481)
|
研究分担者 |
梅本 宏信 静岡大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80167288)
清水 英彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (00313502)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 薄膜 |
研究概要 |
本研究課題は、Ptナノ粒子表面での水素、酸素の燃焼反応を用いたCVD技術を元に、 (1) 次世代紫外LDや紫外LEDのための高品位ZnO結晶薄膜の成長とp型ドーピング技術の構築 (2) 低抵抗ZnO系透明導電膜作製のための省エネルギーCVD技術の構築 を行うことを目的にしており、H25年度は以下の研究成果を得た。 (1)については、サファイア基板上堆積膜において8μmの厚膜で300Kで197 cm2/Vs、二窒化酸素(N2O)ガスを微量添加した膜で218 cm2/Vsの大きな電子移動度の膜を得た。これらの結晶膜について低温フォトルミネッセンス測定を行った結果、N2O無添加膜の10Kでのバンド端発光の半値幅は、0.9meVと非常に小さく、さらにN2O添加膜においては0.7meVとこれまでにサファイア基板上に成長したZnO膜に関するいずれの報告値よりも小さな値を示し、光学的にも非常に高品質な結晶膜が成長することが分かった。更に断面TEM観察から基板との界面付近(基板から30 nmまでの領域)は10^11 cm-2の非常に高密度の転位が存在しているものの界面から100nm以上離れると急激に転位密度は減少し、膜厚約5μmのZnO膜の表面近傍2μmの層の転位密度は、1.1x10^9 cm-2に減少していることが分かった。 (2)については、ガラス基板上へのZnO膜堆積において低温バッファー層の挿入効果を調べた結果、ガラス基板上への直接堆積膜では電子移動度が25 cm2/Vs以下であったのに対し、バッファー層挿入により33 cm2/Vsの値を得ることが出来、適切な下地層の挿入で移動度が向上することを見出した。ただ配向性の優れた結晶膜の成長には500℃の基板温度が必要であった。省エネルギープロセスの確立にはより低温での成長条件の確立が必要であり、今後更に成長プロセスを最適化しより低温での堆積条件で高電子移動度を有する結晶膜の作製を目指す必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由)高品質結晶膜の作製についての目標であるサファイア基板上で200 cm2/Vs以上の電子移動度、1016 cm-3オーダーの残留キャリア密度の高品質エピタキシャル膜の作製は達成出来た。また微量の窒素添加によりさらに大きな電子移動度(218 cm2/Vs)を有するZnO膜の成長に成功し、その光学的特性も非常に優れたものであることを見出しており、サファイア基板上でのノンドープZnO膜の高品質膜について目標を達成できている。ただまだp型化に成功しておらずこれまで試みて来たN2Oガスによるドーピングに代えて、他のドーピング用ガスの添加を試みる必要がある。 低抵抗透明導電膜を目指したガラス基板上での成長膜では電子移動度が最大で33cm2/Vsとまだ充分な高移動度膜は得られていない。今後、更に装置構造の最適化と低温バッファー層形成条件の最適化で目標を達成する必要が有ると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1. サファイア基板上への高品位ZnO結晶膜の成長についてはこれまで200cm/Vs以上の高品質膜が得られており充分な成果であると考えている。今後は更に高品質膜が得られると考えられるZnO基板上へのホモエピタキシャル成長の実験を行う必要が有る。併行してp型ZnO膜作製のための最適なドーピング法とポストアニール条件を見出すことを目指して、H25年度で様々な圧力条件下でN2Oガスを添加しアニールを行ったがp型化に成功していない。今年度は、原子状窒素が取り込まれると期待される一酸化窒素(NO)ガスの添加実験を行いその後、種々のガス雰囲気中でのアニール実験を行うことで窒素アクセプターが活性化される条件を見出す。 2.低抵抗ZnO系透明導電膜作製のための省エネルギーCVD技術の構築については、現在最も電子移動度と光透過率の大きな値が得られた5nmの層厚の付近でもう少し細かく層厚を変える実験を行ったが、1年目を越える優れた電子移動度の結晶膜を得られていない。今後更に装置構造の最適化を行い、ガラス基板上への高電子移動度のZnO膜の成長実験を行う。 以上の実験計画において主要備品としてあげた放射温度計を必要とする。これらの実験で得られたデータに関しては、長年スパッタ法を用いて透明導電膜の研究を行って来た研究分担者(清水)とディスカッションを行うことで、結晶構造と電気的光学的特性の相関に関する考察を行い、次のステップの実験にフィードバックする予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の基金助成金を全額使用して研究を遂行する予定であったが、備品として購入したHall効果測定装置と表面粗さ計が定価より低額に購入出来たことで残額が残った。他の消耗品や旅費は当初予定した程度の支出となったためこの残額をH25年度の研究費として有効に利用しようと考えた。 また当初、H25年度の基金助成金が不足すると見込まれたためH26年度分の基金助成金を全額繰り入れた。それをもとに研究を遂行したが、年度末に129,248円の残が生じた。それは実験を限りなく効率的に行うことで残せたものである。 H24年度の基金助成金の残が有ったためH25年度の予算が予定より多くなり、研究計画時にH26年度購入の予定にしていた紫外可視近赤外分光光度計をH25年度に購入し、ZnO膜の光透過率の評価に有効に利用出来、研究の進展に寄与した。 そこでH26年度は、紫外可視近赤外分光光度計の購入に割り振る予定であった予算を、触媒容器内温度と反応時のCVD容器内の真空度の正確な測定のための放射温度計、バラトロンの購入に充て、研究の進展を促す計画を立てることが出来た。
|