研究課題/領域番号 |
24360017
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20314031)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 転位 / 金属酸化物 / 走査透過電子顕微鏡 / 電気伝導 / 電子エネルギー損失分光 / 還元 / 酸素空孔 / 抵抗遷移 |
研究概要 |
貼り合わせ・原子接合プロセスを、ノンドープおよびNbドープSrTiO3(STO)(001)単結晶基板に適用し、それぞれの基板について、2次元接合面内に高配向転位ネットワーク構造を有する直接接合基板を作製した。また、ノンドープSTO直接接合基板に超高真空還元熱処理を施すことで、結晶内部に酸素空孔を誘発し、n型伝導性を持たせることに成功した。両直接接合STO基板に対して集束イオンビーム加工を施し、広範囲(~10um×10um)で透過電子顕微鏡観察が可能な試料を作製した。その結果、直接接合界面に、個々の間隔が約70nmのらせん転位ネットワークが形成されていることを確認した。 走査透過電子顕微鏡のZコントラス法を駆使し、ノンドープSTO直接接合基板の接合界面における転位芯の原子直視観察を行った。また、ナノプローブ電子エネルギー損失分光法(EELS)により、1本の転位にフォーカスして、その電子状態を解析した。O(酸素)のEELSピークを基準にしたTiピークの立ち上がりエネルギーのシフト、および規格化された両者のスペクトルの面積強度の比較から、転位芯領域では、そうでない(バルク)領域に比べ、酸素が減少していることを確認した。また、TiおよびOスペクトルの損失端近傍のスペクトル形状を転位芯領域とバルク領域で比較したところ、転位芯領域において結晶場分裂の乱れに起因するピーク値の減少が観測された。これらの結果より、貼り合わせSTO基板結晶の接合界面に形成された転位ネットワークの転位芯近傍ではTiとOの化学量論的組成がずれ、特に還元熱処理によって優先的に酸素が欠損することが分かった。本結果は、接合界面の特に転位近傍において酸素空孔が優先的に形成されること、ならびに転位が抵抗スイッチング現象を発現する媒体として機能することを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、前年度までに構築した貼り合わせ・原子接合プロセスをSTOの多様な基板に適用し、接合界面に任意の転位密度を有する高配向らせん転位ネットワーク構造を形成した。これらの転位ネットワーク構造に起因する抵抗スイッチング現象は、前年度と同様に確認されている。また、特に当該年度は還元熱処理された直接接合ノンドープSTO基板結晶の転位芯近傍の原子配列構造とその電子状態の解析に注力しており、走査透過電子顕微鏡のZコントラスト法および一原子コラム分解能での電子エネルギー損失分光法により、局所的な酸素の欠損に起因する化学量論的組成のずれと、結晶場分裂の乱れを観測できた。この結果は転位芯における酸素空孔の形成を強く示唆する結果であり、本研究の目的である転位を取り巻く電気伝導機構および抵抗スイッチング機構の解明に対する確かな糸口が得られたことに相当する。したがって、来年度の最終年度に向けて、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後もおおむね当初の計画どおり本研究課題を推進する方針であり、研究課題、方法に大幅な変更はないが、研究対象となる金属酸化物材料をある程度限定する。本年度までにその物性がかなり明らかになってきたSrTiO3を中心に来年度も研究を展開すると同時に、その物性と比較するうえで意味のある材料としてTiO2を採用し、これら2種類の金属酸化物に対象を絞って研究を遂行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、本研究課題に関連する国際学会に参加するための旅費・参加費に使用する予定であったが、当人の都合により参加できなくなったこと、論文発表に関わる英文添削に伴う謝金支払いの必要がなくなったこと等の事由により、予算執行ができなくなり当該助成金が生じた。 次年度の研究費に加算し、学会参加のための旅費・参加費や英文添削等に関わる謝金等に使用する予定である。
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