本研究では,マイクロリング共振器をマッハ・ツェンダー干渉計の両アームに装荷し,差動(プッシュ・プル)駆動により動作する2×2光スイッチ(MRR-MZ光スイッチ)の実現を目標としている.今年度は,昨年度までに設計した光スイッチの作製と動作実証を目指した. コア層となる量子井戸層には,新たに設計した五層非対称結合量子井戸を用いた.これは,残留キャリアによる電界不均一性がある場合でも電界屈折率変化特性の劣化を抑制する構造を採用した.有機金属気相成長法で成長した場合など,残留キャリアが比較的多い場合に有効な構造である. デバイス作製は,有機金属気相成長法で成長したエピタキシャルウエハを用い,フォトリソグラフィ法である縮小投影露光法と誘導結合プラズマドライエッチング法を用いて,導波路および電極パターンを形成した.最後に,樹脂による埋め込みや電極蒸着を経て完成した. 作製した素子の動作の評価を行った.まず,マイクロリング素子単体は,ほぼ設計通りの共振波長間隔が得られ,また新たに設計した五層非対称結合量子井戸による電界屈折率変化特性の向上を確認した.しかし,動作実証を目指したMRR-MZ光スイッチについては,現時点では所望の特性は得られていない.その原因としては,エッチングプロセスの不具合で生じた導波路高さの不足による曲線導波路部の導波損失が考えられる.引続き評価を続けている.エッチング条件の微調整が必要であるが,デバイス作製プロセス全体としてはほぼ確立できたと考えている.
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