これまでにゼブラフィッシュやシロイヌナズナなどの微小生体試料の弾性変形を、フェムト秒レーザー誘起衝撃力により誘導される微小試料のnmレベルの振動として、原子間力顕微鏡(AFM)により検出することに成功している。さらに、アルギン酸ナトリウムの微小ゲルを用いた実験と合わせて、固体全体の振動、表面弾性波、細胞などの微細構造に由来する振動に帰属されることが明らかになっている。 本年度はまず、ブタジエンゴムに数10umの空孔がハニカム状に規則配列した疑似生体試料を用いたフィルム(ハニカムフィルム)を用いて実験を進めた。このハニカムフィルムに水を浸透させたものを疑似細胞組織とし、フェムト秒レーザー集光点とAFMによる検出点の関係による振動波形の位置依存性について調べた。顕微鏡下でフェムト秒レーザーをハニカムフィルムに直接集光し、フィルムに数100umの欠損を作製し、その周囲におけるレーザー集光点と検出点の位置を調節し、その位置依存性のある振動波形を検出することができた。位置に依存する波形は表面弾性波に帰属され、有限要素法による数値シミュレーションにより同様の依存性を再現できることができた。これは逆解析によるトモグラフィー解析ができることを示す結果である。さらに、細胞骨格であるアクチンフィラメントを薬剤により改変したゼブラフィッシュ胚を用いて実験を行い、胚の全体から細胞レベルの弾性変化を振動スペクトルの変化として検出することに成功した。本研究を通じて、微小な生体組織内に潜在する微小な応力変化とその空間分布を評価する新たなる計測手法を構築することができた。
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