中赤外領域(3-20μm)は、多くの分子振動に共鳴しており、分子の指紋領域といわれている。分子分光にとって、極めて重要な波長領域であるが、ラマン分光と比べて、低レベルな分光しか行われてこなかった。その大きな理由は、中赤外領域の検出器の性能が、可視光領域のものと比べて非常に低いことである。 本研究では、研究代表者の研究室で独自に開発した超広帯域単一サイクル中赤外光パルスを光源とした新しい中赤外分光法を開拓することを目的としている。本研究で提案している超広帯域コヒーレント中赤外光と可視光用検出器を使った分光法により、いままでの中赤外分光ではできなかった、桁違いに高速なデータ取得が可能となるという結果を期待している。 本年度は、これまで開発してきた中赤外分光法を減衰全反射吸収分光(ATR分光)と非線形分光に応用した。ATR分光では、全反射プリズムを装置内に組み込み、プリズム上に試料を設置できるようにした。このことによって、液体や固体について、様々な試料に対応できるようになった。また、試料の上部の空間から、試料に対して様々な操作を行うことが可能である。具体的な実験としては、急速液交換法を使って試料をアセトンから水に急速に交換することを行った。吸収スペクトルがミリ秒のオーダーで変化する様子をリアルタイムに観測することができた。この成果は、Optics Expressに掲載された。 非線形分光への応用では、800nmを励起光、中赤外光をプローブ光としたフェムト秒ポンプ・プローブ分光を行った。半導体のゲルマニウムを試料として実験を行い、2-50μmの範囲で反射率がサブナノ秒のタイムスケールで変化する様子を観測できた。
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