研究概要 |
計画初年度にあたる平成24年度では,主に研究計画の基礎となる理論的手法の整備に注力しながら研究を進めてきた.そのひとつが,遷移金属化合物に代表される強相関電子系の非平衡状態のダイナミクスを取り扱うことのできる新しい理論的手法の展開である.手法の開発と共に,実際の応用例として,しばしばマンガン酸化物等で観測される,低いエネルギーを持つ光による絶縁体金属転移の理論的研究を行った.これにより光学フォノンに相当する,電子系の絶縁体ギャップのエネルギースケールに比べれば十分に小さなエネルギーを持つ格子振動が引き起こす絶縁体金属転移の問題に挑戦し,この現象への理論的解釈への道筋を与えることができた.また,相関電子系からなる接合系の取り扱いに特化した大規模な計算の実行とその演算速度を加速する並列処理アルゴリズムの開発に進展がみられ,強相関電子系からなる接合系の光電変換の理論的研究を前倒しして行った,これをより発展させ,強相関電子系からなる接合系の光電変換効率向上の条件の切り出しなど,実際のデバイス開発に不可欠な情報を得ることができる実時間伝導シミュレーターの開発を目指す.接合系の伝導理論のひとつとして,磁性体と超伝導体からなるジョセフソン接合における,磁気構造の実ダイナミクスを反映した電気伝導の理論を発展させた.また,主に遷移金属化合物の電子構造解析を標的とした,非共鳴・非弾性X線散乱の理論を発展させた,これは,鉄を含む化合物の電子状態の研究を加速するものであり,次年度以降の研究計画の重要課題のひとつとなるものである-
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画初年度は,伝導電子と磁気モーメントが結びついた系の実時間ダイナミクスに焦点を当て,相関電子系に特有の励起と緩和の物理とその応用のための研究を展開してきた.特に,接合系の取り扱いに特化した大規模な計算の実行とその演算速度を加速する並列処理アルゴリズムのチューニングが行われた.これにより,高効率の太陽電池動作の原理,さらにはデバイス設計までを視野に入れたアプリケーション開発に大きな進展があった.
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今後の研究の推進方策 |
計画2年目となる平成25年度では,電子間相互作用をハバード模型の範囲で取り扱い,初年度に開発される有効模型の取り扱いと相補的に互いの結果をフィードバックさせながら,より現実に近い,強相関電子系の励起と緩和のダイナミクスを取り扱っていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
本計画では新規に数値計算機を導入し,研究を進めてきた.この計算機で使われるCPUのアーキテクチャは,従来のものと大きく異なる.そこで初年度では,まずは小規模な計算機を導入し,この新アーキテクチャに現有アプリケーションを対応させる作業を行い,研究計画を加速することに成功した.都合生じた今年度未使用額は,次年度以降のハードウエア面での並列計算による演算性能の向上のために使用される.
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