研究課題/領域番号 |
24360054
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
細川 晃 金沢大学, 機械工学系, 教授 (40199493)
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研究分担者 |
上田 隆司 金沢大学, 機械工学系, 教授 (60115996)
古本 達明 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (60432134)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | PVD / コーティング工具 / AIP法 / 難削材 / 切削抵抗 / 工具摩耗 / 凝着 / 仕上げ面粗さ |
研究概要 |
本研究は革新的なコーティング工具の開発が目的であるため,独自のコーティング装置である“ホロカソード放電型スパッタ装置”の導入を検討した.しかし,本研究のコアであるコーティング膜創成装置の製作過程で不具合が判明し,装置の抜本的な再設計を行ったため完成が平成25年度にずれ込んだ.したがって,本研究実績は本来平成24年度に行う予定で平成25年度に持ち越した分の内容となっている. 1. (H24年度):当初の“ホロカソード放電型スパッタ装置”と同等の機能を有しながら,機能性・拡張性に富む“アーク放電収束プラズマ輸送型イオンプレーティング装置”の設計をコーティングメーカーと共同で行った.これは,FAD(Filtered Arc Deposition)手法による成膜を可能にしたもので,より平滑なコーティング膜が生成できる. 2. (H24年度):アークイオンプレーティング法によるTiAlN/AlCrN-コーティングエンドミルを作製し,膜の機械的性質・構造を明らかにするとともに,難削材であるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)およびプリハードン鋼(SUS420J2)の切削に適用した.2層構造TiAlN/AlCrN-コーティング工具は,単層構造のAlCrNに比べて母材との高い密着性を有しながら,AlCrN本来の耐熱性を維持することを示した.また,この2層構造コーティングエンドミルは TiAlNに比べ切削抵抗が低く,逃げ面摩耗も小さいことを明らかにした. 3. (平成25年度):“アーク放電収束プラズマ輸送型イオンプレーティング装置”を導入し,成膜のための調整を行った.すなわち,(1)放電パラメータ(カソード・アノード間距離/ダクトバイアス電流/バックコイル電流)の最適化,(2)ターゲットと形成される膜の組成比の関連づけ,を行い,正常にコーティング膜が生成できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の特徴は独自のコーティング装置の導入であるが,この装置の製作過程で不具合が生じて再設計を余儀なくされ,その開発と導入が遅れたことに尽きる.本来,平成24年度でコーティング装置のチューニングと成膜条件を確定する予定であったが,装置の導入が平成25年度にずれ込んだため,当初の予定を達成できなかった.しかしながら,成膜実験と切削実験を開始できる段階まで終了し,下記の有益な結果を得ている. 1. (H24年度):設計変更した“アーク放電収束プラズマ輸送型イオンプレーティング装置”はドロップレット(溶滴)のない平滑な膜の生成が可能であり,当初の“ホロカソード放電型スパッタ装置”と同等の機能を有していることを確認している.また,装置自体は小形化したが,成膜チャンバーは比較的大きく,エンドミルを20本程度同時にコーティングできる. 2. (H24年度):2層構造のTiAlN/AlCrN-コーティングエンドミルが優れた切削性能を有することを示すことによって,多層構造膜の有効性を明らかにした.すなわち,新しい膜種を開発することはもちろん重要であるが,母材との密着性・耐熱性・平滑性など種々の特性を有している既存の膜種の多層化・階層化によっても優れたコーティング工具を製作可能であることを明らかにした. 3. (平成25年度):“アーク放電収束プラズマ輸送型イオンプレーティング装置”による成膜実験を開始し,ドロップレットのない平滑な膜の生成に成功した.また,生成パラメータを変えることによって,膜厚,密着度,組成などが変化することを明らかにした.ただし,現段階では成膜レートがやや小さく,最適成膜条件までは明確にできていない.
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今後の研究の推進方策 |
1. 引き続き,“アーク放電収束プラズマ輸送型イオンプレーティング装置”のチューニングと成膜条件の最適化を行う.本装置は陰極表面に形成される陰極点から放出される高エネルギーのイオンを蒸着して薄膜を形成するものである.重要なのは,アーク放電にともなって発生したプラズマの安定化を図ることである. 2. 基材との密着力の改善を行う.すなわち,基板表面の酸化物層や有機物層をイオンスパッタリングで除去するボンバード工程の最適化を図る.通常,不活性ガスであるArイオンでスパッタリングするが,いくつかの金属イオンでのスパッタリングを試みる.なお,膜の密着力は既存のロックウェル硬度計によって行う(ISO 26443 準拠). 3. まずは,最も基本的なTiN, TiAl, TiAlNを対象に,ドロップレットのない平滑な膜の創成条件を確定する.膜の特性は,(1)平滑性(3次元粗さ計/SEM),(2)硬さ(ビッカース試験機),(3)母材との密着性(ロックウェル硬さ計),(4)膜厚(膜厚計),(5)摩擦係数により評価する.なお,(5)に使用する「摩擦摩耗試験機」以外の機器は代表者の研究室で所有している. 4. 作製したコーティング工具で基本的な切削加工実験を行い,切削抵抗と工具摩耗について市販品と比較する.特に,耐摩耗性の確保は優先項目とする.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は,アンバランスド・マグネトロン・スパッタ法(UBMS法)によるコーティング技術を極度に高度化し,Ti合金やNi基合金などの高強度難削材の高能率切削を可能にする新しいコーティング工具を開発することを目的としている.したがって,独自のコーティング装置の導入が不可欠であるが,平成24年7月,本研究のコアであるコーティング膜創成装置(特注仕様)の製作過程で不具合があることが判明した.そのため,装置の抜本的な再設計に6ヵ月を要した.その結果,コーティング装置の仕様を大幅に変更したため製作に3-6ヵ月の期間延長が必要となった.そのため,購入予定の大型装置の納入が平成25年度にずれ込むため. 当初予定した“ホロカソード放電型スパッタ装置”と同等の機能を有しながら,若干コンパクトで機能性・拡張性に富む“アーク放電収束プラズマ輸送型イオンプレーティング装置”の設計をコーティングメーカー(㈱オンワード技研)と共同で行った.これれ,FAD(Filtered Arc Deposition)手法による成膜を可能にしたもので,より平滑なコーティング膜が生成できる.次年度は設計変更した同等のコーティング装置を導入する.
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