研究概要 |
自励振動に対する動吸振器は,適切に設計すると防振対象だけでなく動吸振器も全く振動しなくなるという特長を有する反面,動作原理が明確化されていないという問題が残されている.本研究では,自励振動に対する動吸振器の動作原理を理論的に解明するとともに,合理的な最適設計法を開発する.本年度の実施項目は次の通りである. (1)時間遅れ系:抄紙機のスーパーカレンダーロールのような多自由度接触回転系で発生するパターン形成現象を対象に,動吸振器を利用した防振を目指した.研究代表者らが先に提案した動吸振器の最適設計法を適用しても十分な安定化が実現できない場合の対策として,ゴム巻きロールの直径比を変更することを検討した.理論解析により,系の安定性が向上することで,質量比の小さな動吸振器でも同等の効果が得られることがわかった.なお,過去に開発した同一直径のゴムロールからなる(すなわち遅れ時間が同一な)系を対象とした安定判別法を,ゴムロールの直径が異なる系に適用できる汎用性の高いものに改良した.これにともない,直径比の最適値を含めた最適設計が可能となった. (2)係数励振系:最も基本的なモデルである支点が上下運動する剛体振子を対象として,剛体振子型の動吸振器による系の安定性への影響を近似解法により解析した.その結果,剛体振子に対しても動吸振器による安定化が可能であることを確認した.さらに,外力から流入する励振エネルギーと系に作用する減衰による消費エネルギーをモード毎に比較することにより,系の安定性を推定する方法を検討した.これにより,係数励振を防止する動吸振器の最適設計法の開発が期待できる.また,軸力が周期変動するローラチェーンやベルトによる伝達装置で発生する係数励振を対象として,種々の形式の動吸振器の安定性への影響を検討した結果,上記モデルと同様に動吸振器による防止対策の可能性を見いだすことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた三つのタイプの自励振動のうち,非対称行列系に関しては次年度に行うこととし,残りの時間遅れ系および係数励振系の二つのタイプに集中して行った.このため,非対称行列系に関しては遅れている状況であるが,他の二つに関しては当初の予定より進んでおり,総合的にはおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
共同研究者の内,1名は本年度途中で他大学へ異動しており,他の1名も次年度に他大学への異動が決定している.しかし,連絡を密にとり月1回の頻度で当大学で打ち合わせを行う予定であり,研究遂行に大きな影響はないと考えられる.また,本年度の共同研究者の異動にともない非対称行列系の実施を次年度に延長したが,「11.現在までの達成度」で述べたとおり,他の二つが進んでいるため問題なく遂行可能である.
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