研究課題/領域番号 |
24360141
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
矢野 満明 大阪工業大学, 工学部, 教授 (40200563)
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研究分担者 |
小池 一歩 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (40351457)
佐々 誠彦 大阪工業大学, 工学部, 教授 (50278561)
筒井 博司 大阪工業大学, 工学部, 教授 (00351453)
大松 繁 大阪工業大学, 工学部, 教授 (30035662)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 先端機能デバイス / 計測工学 / 電子デバイス・機器 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体液(尿)中の健康指標マーカを、「複数成分を同時に」、「その場で」、「連続して」、「短時間に」、「定量的に」検出できる、使い捨てが可能で、環境に優しい、糖尿病診療支援デバイスを提供することにある。その目的を達成するための研究に関して、平成26年度は以下の成果を得た。 1.ガラス基板上の酸化タンタルと酸化亜鉛の積層薄膜で作製した溶液ゲート型電界効果トランジスタ(SG-FET)で、溶液中の水素イオン、血糖(β-Dグルコース)、免疫グロブリンの夫々を特異的に検出し、これらの健康指標マーカのゲート表面への結合が可逆的な単分子層吸着であることを見出した。また、その結合速度定数と解離速度定数ならびに解離平衡定数を見積もり、試作した溶液分析センサが健康指標マーカの濃度増減に対して数10秒以内の時定数で可逆的に応答することを実証した。 2.さらに低コストでSG-FETを作製する方法として、ゾル・ゲル法による酸化亜鉛系薄膜の成膜を検討した。金属配線でゲート電位を印加する通常タイプではあるが、良好な変調特性と伝達特性を有するFETを実現した。 3.溶液の匂いが糖尿病の診断に有益であることに着目し、従来にないp型酸化物半導体セラミックスを用いた高感度ガスセンサを開発し、その検出特性を解析した。 4.SG-FETを集積化した溶液分析チップの実用的動作で重要となる、溶液から固形夾雑物を濾過するフィルタをマイクロピラーアレイで構成することに成功した。 5.検出特性の異なる複数のセンサ(今回は酸化物半導体セラミックスガスセンサを使用)を用いて、学習制御型ニューラルネットワークを用いた人工知能で、未知の液体の成分を同定するアルゴリズムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
単結晶シリコン製と同等の感度と安定性を有するのみならず、光照射に対するエラーが格段に少ない溶液ゲート電界効果トランジスタ(SG-FET)を作製し、ゲート絶縁膜上に選択的イオン吸着膜を固定化することにより、健康指標マーカを特異的に検出するセンサとして動作させた。また、その検出機構が可逆的な化学反応に基づくことを明らかにして、当該センサを繰り返し測定に供することができることを実証した。これは、実用上重要な成果である。また、さらに低コストな生産を可能とするゾル・ゲル法で作製する技術の目処をつけたこと、生体液を分析するマイクロチップで重要となる固形夾雑物の濾過フィルタをマイクロピラーアレイで構成することができたこと、溶液の匂いが重要な情報を与えることに鑑み匂いを高感度で選択的に検出するp型半導体セラミックスガスセンサを開発したこと、特性の異なる複数の半導体セラミックスガスセンサを組み合わせて、組成が未知の液体の種類を同定する学習制御型ニューラルネットワークを開発したこと、は課題達成に向けた着実な成果である。 一方、SG-FETによる血糖や免疫グロブリンの検出感度特性にバラつきが大きいのが現状でであり、定量的な測定結果の再現性が十分でない。このため、当初の目的であったSG-FETをセンサとするニューラルネットワークの構成に着手できていない。 以上を勘案して、当初計画から「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、課題を達成するために以下の各項目に関する研究を実施する。 1.ガラス基板上にスパッタリング法で堆積させた酸化タンタル/酸化亜鉛/酸化マグネシウム亜鉛の積層膜を加工して溶液ゲート型電界効果トランジスタ(SG-FET)を形成し、そのゲート絶縁膜表面に各種の感応膜を固定化して、水素イオン濃度、糖濃度、抗体(免疫グロブリン)濃度を検出する溶液分析センサを作製する。時間的余裕があればクレアチニン濃度あるいは尿素濃度の検出も試みるが、定量的な測定結果の再現性を高めることを優先する。 2.上記の溶液分析センサを集積化したマイクロチップを実現するための要素技術を開発する。特に、マイクロ流路での溶液輸送と混合方法とともに、高性能なフィルタの実現に注力する。 3.尿の匂いから健康状態を把握するために、ガス感度特性の異なる複数の半導体セラミックスセンサの開発と、その高感度化ならびに高速応答化を図る。 4.溶液分析センサやガスセンサの検出信号から健康状態の把握に有用な情報を抽出するために、学習制御型ニューラルネットワークによる3層構造アルゴリズムを開発する。定量的な測定の再現性に優れた溶液分析センサの開発が遅れている現状を踏まえ、ガスセンサを用いたニューラルネットワークの構築を優先して実施する。 平成27年度は研究の最終年度となる為、上記1~4を統合して、プロトタイプとなる測定システムを構築する。得られた研究成果は、国内外の学会で発表するとともに、専門学術雑誌の論文として公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年秋に予定していた海外で開催の国際会議への出張1件(旅費と参加費の合計45万円を予定)を勤務先大学の業務の都合で取り止めたこと、当初予定していなかった高額消耗品(半導体薄膜材料16万円程度、フォトマスク8万円程度)を購入したこと、によって発生した約21万円の差額を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度秋に開催される国際会議で研究成果を発表するための出張経費(旅費と参加費の合計45万円を予定)の一部として使用する。
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備考 |
http://www.oit.ac.jp/japanese/nanotech/project/archive.html
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