研究課題/領域番号 |
24360151
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
臼田 毅 愛知県立大学, 情報科学部, 准教授 (80273308)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 情報通信工学 / 量子情報理論 / 量子通信 / フェージング / 通信路容量 |
研究概要 |
本年度に行った研究を要約すると次のようになる. 1.“vacuum-or-not”測定(以下,V-or-N測定と略す)を基礎とした受信機の基本特性:研究開始後にもたらされた,米国のMITを中心としたグループによる成果を取り入れ,V-or-N測定を基礎とした受信機の特性を明らかにした.具体的には,MITのグループの示した無限の極限ではなく,有限におけるV-or-N測定と量子最適測定(SRM)のギャップを明らかにした.結果として,PSKおよびASK信号において,V-or-N測定が元数が少ない場合でも準最適であることがわかった. 2.有限長の古典―量子ポーラ符号による符号化の量子利得特性:2012年に古典―量子ポーラ符号と逐次除去復号によってHolevo容量が達成可能であることが示されたが,通信路符号化定理の証明のツールとしてだけでなく,実用的な符号として意味があるか否かを見るため,符号長が短い場合について,ポーラ符号による情報量の特性を調べた.その結果,調べた符号長数百程度まで,これまでに他の符号で得られていた最大の超加法的量子利得に匹敵する利得が得られることが明らかになった. 3.最適な量子一括復号による通信路行列公式のさらなる拡張:従来の通信路行列公式を量子フェージング通信路に適用可能なものに一般化するための第一歩として,前年までに定義した広義の群共変的信号の一クラスに対し,グラム行列の分解を与え,通信路行列公式を導出した.得られた公式は,従来の公式を少し修正した程度のものではなく,違ったクラスの公式が導出できた. 4.通信路のモデル化と誤り率特性:量子フェージング通信路の通信路のモデル化に関し,位相変動がある場合の通信路出力状態を考え,BPSK変調を行った場合の誤り率特性を調べた.その際,位相変動量の分散が未知の場合の量子最適受信機のロバストネスについて考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,前年に米国のMITを中心としたグループによりもたらされた成果を取り入れ,“vacuum-or-not”測定や古典―量子ポーラ符号について,有限の場合の特性を示した.これは,当初の計画には無かったが,世界の流れを考慮して新たに研究内容に取り入れたものであり,ある意味,予想以上の進展であるといえる.通信路行列公式の一般化についても,従来の公式とはかなり違った形の公式が得られたが,これもやや予想外の展開であった.量子フェージング通信路のモデル化に関しては,現状,簡易モデルを考え,特性を調べている段階である.このように,総合的にはおおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
研究開始後に,MITを中心としたグループにより量子通信研究の大きな飛躍がもたらされ,本研究でも予想された形とは異なる通信路行列公式が得られるなど,状況が動いている.このため,引き続き世界の流れを考慮して研究を進めるが,実用化を見越し,有限の信号数,有限の符号長というキーワードに即したアプローチを貫く.通信路行列公式導出に関わる展開は,予想を超え,非常に面白くなっている.予想された形式とは変わってきているが,その分新しいともいえ,このまま拡張を進める.その他は当初の計画通りに進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度あるいは次年度に計算機を購入予定であったが,本年度の購入は念のために見送った.当初の予想よりも計算機のモデルチェンジが遅れていたが,ようやくモデルチェンジされたものの,初期不具合の情報があったためである. なお,本年度の支出は当初計画よりもむしろ多く,次年度使用額は前年度からの繰り越し額が縮小されたものである. 計算機使用が本格化する3年目を目処に,最新スペックの計算機を整備する予定である.また,次年度以降,成果発表費用がますます必要となるため,国内外の旅費も充実させる.
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