現在の耐震設計の入力地震動の設定の基本的な考え方は,性能照査において十分に「強い」と考えられる地震動を考慮することで,想定すべきそのほかの地震動に対する安全性を確保するというものである.しかし,構造系の非線形挙動は複雑で不確定性も高いため「強さ」の評価は容易ではない.本研究では,耐震設計で考慮する外力の選定において,地震動強度等に基づいて選出された数波の地震動ではなく,考慮すべき「地震動の集合」の全体を用いるという考え方を提案した.ただし,設計で多数の入力地震波を用いるのは現実的ではないため,実用的な方法として,多数の地震動を含む集合から設計用入力地震動を合成する手法も構築した.本研究は,以下に示す2つの要素から構成される. (1) 想定する地震動の集合の設定:地震動の集合が有する耐震設計における価値(有用性)の評価に基づき,想定すべき地震動集合の設定法を提案した.設計で考慮する地震動集合が大きいほど,耐震設計の要求性能は高まる.本研究ではその大きさを情報エントロピーで計量することで,波数や最大加速度等の古典的な指標よりも適切な評価が可能となることを示した.これにより,どの範囲までの地震動を考慮すべきか(例えば,考慮すべき地震動の数)についても検討することが可能となることを検証した. (2) 設定された地震動集合を代表する設計用入力地震動の合成:実際の設計では集合に含まれる全ての波形を使うのでは無く,他の波形を「学習」させて集合を適切に代表する波形を合成することを提案した.本研究では安定的な計算のために,JSダイバージェンスの導入を提案し,その有効性や課題を明らかにした.また,集合全体を一つの波で代表させるのでは無く,クラスタリング手法を用いて膨大な数の地震動を類似した波形別のサブ集合に分け,それぞれを代表する波形を合成することで,より適切な波形を合成する手法を構築した.
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