研究概要 |
本研究の最終的な目標は,飽和から不飽和へ,不飽和から飽和状態への堆積岩中の水分移動に伴う岩石の変形を定式化することである. このような挙動に関する実験データは,実のところあまり多く存在していない.そこで,本目的を成就させるためには,まず各種岩石を用いて乾燥変形実験を実施し,データの蓄積をすることが大事である.平成24年度は主に日本原子力研究開発機構が北海道幌延で掘削したボーリングコア試料を用いて,乾燥変形実験を実施した.その結果,一連の地層である声問層と稚内層において,深度が深くなるに従い間隙率などの物性値が系統的に変化するとともに,乾燥によって生じる収縮ひずみ量が全体としては大きくなることが分かった.各深度の試料の水銀圧入試験結果と比較すると,0.013-0.025μm範囲の間隙径をもつ間隙の乾燥収縮に与える影響が大きいことが示唆された. またこれらと並行して,平成25年度に予定している試料寸法を考慮した乾燥変形実験を行うための予備検討として,乾燥に伴う不飽和領域の形成と弾性変形の連成挙動を数値解析的に表現した.定式化は,不飽和流れにリチャードの式を用い,これと多孔質弾性体の構成式を連成させた.蒸発面での水分移動に関する境界条件には,実験で得られた蒸発面直上における相対湿度をKelvin式に代入して,蒸発面での圧力水頭に置き換えたものを用い,水分特性曲線にはvan Genuchten式を用いた.例題として,これまでの乾燥変形実験により一次元的な乾燥条件に対して変形が等方的に生じることがわかっている白浜砂岩の物性値を用いたところ,実際に与えた蒸発に関する塊界条件では実現象の変形モードを再現することはできないことが明らかとなった.その主因は,蒸発面近傍に形成されたメニスカスによって生じる負圧が影響する範囲が存在していることにあると考えられ,これを実証するための実験を考案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幌延珪質岩に関する乾燥変形実験結果が着実に蓄積されていること,乾燥変形現象に与える蒸発に関する境界条件設定が非常に重要であり,特に負圧の生じる影響範囲の評価が必須であることが判明したこと,試料の水浸実験についてはフェーズフィールド法を用いた定式化の準備を進めたこと,内部間隙構造の把握については弾性波測定と透気試験の組み合わせで概ね表現しうることがわかったことなどより,ほぼ研究実施計画に沿ったものとなっていると自己評価した.ただし,スイスとの共同研究の実施計画は平成25年度へ持ち越している.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には,当初計画通り,各種岩石の乾燥湿潤実験データを蓄積しつつ,新たに供試体寸法を考慮した乾燥変形実験を実施する.ただし,このために設備申請していた恒温恒湿ブースを取りやめ,既存の恒温装置をオーバーホール後に恒湿装置を導入することで対応することとした.また岩盤の乾燥変形が一因となったと考えられるトンネル天端崩壊が国内の現場で発生したことが判明したため,この調査計測も研究計画に含めることとした.
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