研究課題/領域番号 |
24360211
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松下 拓 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30283401)
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研究分担者 |
松井 佳彦 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00173790)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 土木環境システム / 水質汚濁・土壌汚染防止・浄化 / ウイルス |
研究概要 |
本年度は、凝集沈澱処理を実施している全国の浄水場から原水(環境水)を送付していただき、ここにヒト水系感染症ウイルスを添加して人工原水とし、これを用いて回分式凝集処理実験を行うことにより、ウイルスの処理性を詳細に評価することを目的とした。さらに、ヒト水系感染症ウイルスの処理性を代替しうる水質指標の模索を行うと同時に、ウイルス除去向上のための改善策を提案することを目的とした。本年度は、ノロウイルスの挙動を詳細に調べるとともに、ポリオウイルスについての処理性の検討を始め、さらにはアデノウイルスの処理性検討に必要な測定法の確立を試みた。 その結果、単独ではウイルスを除去できない孔径0.1 μmのMF膜であっても、前処理として凝集処理を導入することで、ノロウイルスも他のウイルス(大腸菌ファージQβとMS2)も除去できることが分かった。凝集-MF膜処理におけるノロウイルスの除去率は4 log以上であると推定され、この除去率は、分画分子量1 kDaのUF膜と同程度であった。一方、通常浄水処理にて用いられる塩基度50%のポリ塩化アルミニウムを用いた凝集沈殿処理によるポリオウイルスの除去は1 log程度であることが分かった。この値は、腸管系ウイルスの指標としてよく用いられる大腸菌ファージMS2の3~6 log程度の除去と比べると極めて小さい値であった。また、ポリオウイルスとMS2の除去の間には相関が見られなかった。さらには、本研究で検討したその他のいずれの水質指標(濁度, 紫外部吸光度など)もポリオウイルスの除去との間に相関性が観察されなかった。従来型の塩基度50%のポリ塩化アルミニウムと比べ、塩基度70%の高塩基度ポリ塩化アルミニウムなどのコロイド状アルミニウム種を多く含む新規凝集剤は、効率良くポリオウイルスを除去可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度に行う予定であったノロウイルスVLPsの各種浄水処理(凝集-沈澱-砂ろ過, 凝集-MF膜ろ過, UF膜ろ過)における処理性の詳細な調査を速やかに滞りなく完遂し、その成果を論文としてまとめることができた(Water Research誌)。また、研究計画では次年度に行う予定であった、ノロウイルス以外のヒト感染性ウイルスであるポリオウイルスの浄水処理性の評価を開始し、試行数は少ないもののポリ塩化アルミニウムを用いた凝集沈殿処理によるポリオウイルスの除去が1 log程度であることや、この除去率が腸管系ウイルスの指標として広く用いられる大腸菌ファージMS2の3~6 log程度の除去と比べると極めて小さい値であること、ポリオウイルスとMS2の除去性の間には相関が見られなかったことを示した(すなわち、大腸菌ファージMS2はポリオウイルスの浄水処理性指標として使うことは難しい)。さらには、次年度に行う予定であるアデノウイルスの浄水処理性評価を行う上で必要となる、PFU法を用いたアデノウイルスの定量法を確立することに成功した。以上より、本研究が「当初の計画以上に進展している」と判断された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に少ない試行数ながら実験を開始したポリオウイルスの浄水処理性を、国内の複数箇所の浄水処理場より採取した水道原水を用いることにより詳細に調べ、一般的な処理条件における処理性の把握を行う。また、本年度に確立したPFU法を用い、アデノウイルスの浄水処理性についても詳細に調べていく予定である。さらに、A型肝炎ウイルスの評価も加えて実験を進め、将来的に規制が必要となる可能性のあるウイルスとしてアメリカ環境保護庁(USEPA)が挙げる4つのウイルス種であるアデノウイルス, カリシウイルス(ノロウイルス), エンテロウイルス(ポリオウイルス), A型肝炎ウイルスを網羅した処理性評価を行う予定である。これにより、浄水処理の各単位処理(すなわち、凝集-沈澱処理など)でのヒト感染性ウイルスの除去性を把握することが可能となる。さらに、これらのウイルスに加えて、大腸菌ファージ(MS2, φX174, PR772)を原水に添加して各種浄水処理実験を行い、それらの処理性を比較することにより、浄水処理におけるヒト感染性ウイルスの指標としての大腸菌ファージの可能性を議論する。その際、PFU法により測定される感染性ウイルス濃度の把握のみならず、PCR法を用いて感染性の有無に関わらずウイルス粒子としての挙動を調べることにより、より詳細なヒト感染性ウイルスの除去性について議論する。次年度は本申請の最終年となることから、これらの成果を論文としてまとめるとともに、国内外の学会にて発表を行い、広く発信する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に行う予定であったノロウイルスVLPsの各種浄水処理(凝集-沈澱-砂ろ過, 凝集-MF膜ろ過, UF膜ろ過)における処理性の詳細な調査が、大きな問題もなくスムーズに終了したため、あらかじめ失敗を考慮して組み込んでいた複数の実験を行う必要がなくなり、そのための予算を使う必要がなくなった。一方、次年度に行う予定であった実験を一部開始したが(ポリオウイルスの浄水処理性評価とアデノウイルスの定量法の確立)、そこに必要となった予算が、上記の行う必要のなくなった実験に要する予算より小さかったため、全体として「次年度使用額」が生じた次第である。 次年度には、ノロウイルス以外のヒト感染性ウイルスの浄水処理性を詳細に調べる予定である。さらに、これらのウイルスに加えて、大腸菌ファージ(MS2, φX174など)を原水に添加して各種浄水処理実験を行い、それらの処理性を比較することにより、浄水処理におけるヒト感染性ウイルスの指標としての大腸菌ファージの可能性を議論する。申請時の枠組みでは、ここまでの検討に必要な予算を計上していたが、これに加え、「次年度使用額」により、予算不足のため当初行う予定でなかったリアルタイムPCR法による感染性の有無に依存しないウイルス濃度の定量を試み、感染性ウイルスの挙動のみならず、ウイルス粒子としての挙動を把握し、その双方から浄水処理におけるヒト感染性ウイルスの処理性を議論していく予定である。
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