1.底層水環境中での汚染物質の移行と生物影響評価 藻類の細胞内への重金属類の移行と捕食底生生物への移行性画分の評価について、下水処理水由来溶存有機物を添加した系での実験を行った。2箇所の都市下水処理水に0~1.3 mg/Lの範囲で5段階の濃度の銅を添加し、緑藻類Scenedesmus acutusを10日間培養した。増殖に伴うpH上昇を緩和するためTrisバッファを添加した系も同様に実験を行った。培養末期の溶存態銅濃度と固相(藻類細胞)中銅濃度との関係は2つの下水処理水試料でほぼ同様であったが、バッファ添加により固相への移行が大きく低下した。増殖した銅汚染藻類細胞を回収し、底生甲殻類Heterocypris incongruensの餌として投与して、6日間飼育後の致死率を定量した。餌中銅濃度と致死率との用量反応関係は、藻類培養時のバッファ添加の有無による差異よりも、下水処理水試料ごとの差異の方が顕著であった。一方の下水処理水を用いた際の用量反応関係はC培地を用いた際の関係(前年度成果)とほぼ同様であったのに対し、もう一方は毒性影響が大幅に低い結果となった。この差異と、藻類細胞内の銅の分画結果との明確な関係性は認められなかった。 2.錯形成能特性評価 前年度の予備的検討を踏まえ、下水処理水中溶存有機物の環境中での光反応に伴う錯形成能特性変化を、UV-LEDを用いて確認した。10kJ/m2の線量で312nmおよび340nmの紫外線を下水処理水にそれぞれ照射し、照射前後の錯形成能を調べたところ、312nmではニッケル錯形成能低下、カドミウム錯形成能上昇、340nmではニッケル錯形成能低下、銅および亜鉛錯形成能上昇が統計的に有意であった。3次元励起蛍光分析からも波長による変化の差異が確認された。別の時期に同一の下水処理場にて採取した処理水に340nmの紫外線をより高線量(82.4kJ/m2)で照射した場合でも、錯形成能変化の元素依存性の傾向は同様であった。
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