建築物の床は、床上での人間の動作時に、人間が床に与える荷重に応じてへこんだり、たわんだり、揺れたりする。このような床の鉛直方向の動的変形挙動は、動作している本人が感じるかたさや、下階にいる人に聞き取られる床衝撃音など、種々の性能に大きく影響する。近年、床衝撃音遮断性能向上の観点から表面を従来以上にやわらかくしたため、動作した際「ぶよぶよする」,「ぐにゃぐにゃする」といった特異な感触が感じられる床が多く普及しており、歩行時の心地よさ(以降“歩行感”と記す)の観点から大きな問題となっている。本研究は、床表面の変形性状により特異な感触が生起されるメカニズムを把握するとともに、歩行感からみた変形性状の妥当な評価方法を確立し、さらに歩行感,床衝撃音のいずれの観点からも要求性能を満たす床を開発するための知見を提示することを目的とする。 平成24年度は、30種程度の試料床を媒体として、人間の動作時の試料床の動的変形挙動、特に微少荷重領域における床表面の変形性状と、官能検査手法を適用して定量化した試料床上での歩行感との関係から、特異な感触が生起されるメカニズムを明らかにした。続いて、平成25年度は、微少荷重領域を含む床表面の動的変形挙動を実状に即した荷重条件下で測定できる“変形性状測定装置”を開発し、装置による測定結果と前年度の官能検査結果との関係から、特異な感触が生起されるメカニズムに忠実な歩行感の評価方法を確立した。さらに、平成26年度は、対象とする床を住宅などで最も普及している木質系直貼り床に限定したうえで、簡便な静的試験で把握できる床の変形特性と、前年度に確立した方法による歩行感の評価結果や、別途測定した床衝撃音遮断性能との関係を検討し、歩行中のどの程度の荷重領域における床面のどの位置の変形が各性能に影響しているのかを明らかにし、バランスの取れた床を開発するための知見として整理した。
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