本研究の目的は、有害危険物質による健康被害の可能性を、居住空間のスケールから都市空間規模のスケールまでにおいて横断的にかつ一貫的に評価する手法を構築することである。 申請者は、流れ場の一特性である乱流状態が空気の混合促進作用を持つことに着目する。時間定常な空気環境にて障害物が移動する場合、障害物境界における流れの剥離により後流が乱流遷移する。申請者はこの現象が、障害物が空気へ及ぼす仕事率(もしくは仮想的な仕事率)が、ほぼ等しく乱流へのエネルギー注入に費やされるという観点にのっとって乱流場を評価する。ここでいう障害物は歩行する人体や都市空間内の建物のことを意味しており、仕事率とは(人体の歩行速度×抗力)や、もしくは(周辺空気の速度×建築にかかる抗力)である。後者の場合は建物が静止しており、気流場が平均速度を持ち接近するため、実際には建物が気流へ仕事を行うわけではないものの、仮想的な仕事率を上述のように考えることで関係式を組み立てた。 対象となる居住空間のスケールは、院内感染を想定し待合室の人体の歩行運動(直線運動と回転運動)の乱流へのエネルギー注入を検討した。また、都市空間規模のスケールは原子力発電所の放射性物質の拡散を取り上げた。本研究は、特に居住空間のスケールに着目し、換気システムによる汚染物質の拡散に対する抑制効果を評価し、将来には伝染病を防止するため、新たな換気方式の改善策を提案した。
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