研究概要 |
本研究では,ランダム粒界への元素の偏析を,粒界アモルファス構造の安定化という新たな視点でとらえなおし,これまで経験的取扱いしかなかった偏析現象の理論構築を試みることを目的としている.H24年度の研究項目としては,第一原理計算と熱力学的解析による2元系固溶体およびアモルファスの自由エネルギー評価と,分子動力学法により構築したアモルファス構造中の多面体構造の解析である.粒界偏析を熱力学的取り扱うためには,粒界相と母相の自由エネルギーが必要であることから,まず固溶体である任意の合金系の母相の自由エネルギーをクラスター展開・変分法によって計算する手法を確立し,3元系以上の多元系合金にも適用できる計算コードの開発に成功した.特に鉄系では侵入型元素が必ず添加されるため,このような侵入型元素の挙動にも対応できる計算プログラムを作成した.また,第一原理分子動力学法を用いてFe-B2元系融体の原子位置の時間変化を調べ,その結果をtwo-levelモデルにより解析して,各成分の化学ポテンシャルを計算する手法について検討した.第一原理分子動力学法はきわめて大量の計算資源と計算時間が必要とされることから,この項目は現在も引き続き計算を行っているところであるが,比較的小規模の64原子を用いた計算では,動径分布関数の抽出に成功し,これまでほとんど研究事例のなかった液体合金の自由エネルギーの計算への見通しを立てることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度の研究項目としては,第一原理計算と熱力学的解析による2元系固溶体およびアモルファスの自由エネルギー評価と,分子動力学法により構築したアモルファス構造中の多面体構造の解析であるが,前者に対しては3元系以上の多元系合金にも適用できるクラスター展開・変分法の計算コードの開発に成功したことからほぼ目標を達成することができた.今後は実際の合金系への適用を試みることが課題である.一方後者については,第一原理分子動力学法を用いていることから,きわめて大量の計算資源と計算時間が必要であり,年度内に64原子程度の小規模系での計算がようやく終了した段階であり,まだ計算精度の面で十分な結果が得られていない.しかしこの手法をtwo-levelモデルにより解析し,液相やアモルファス合金の熱力学量を計算する手法についてはめどを立てることができたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
数百原子程度の系における第一原理分子動力学計算の実行を行い,液相やアモルファス相の自由エネルギーのより精密な導出を行い,その結果と実験による熱分析を示差走査熱量分析計により行って,計算結果の確認を行うことがH25年度以降の課題である.さらに結晶化の初期に生成する非平衡析出物のX線回折実験を行い,結晶構造と格子定数,原子位置を決定する.H24年度には83万円程度生じたが,これは研究代表者が東北大学へ異動することが決まったため,異動後の研究再開を円滑に進める目的で予算を確保したことが原因である.計画書ではH25年度は液体急冷凝固装置を年度当初に購入する予定であったが,この装置が共同研究者である鹿児島大学・徳永准教授のもとに導入されたため,研究代表者は新たにThermo-Calcなどの熱力学計算ソフトを導入し,研究の加速化を図ることにしている.
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