研究課題/領域番号 |
24360265
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大谷 博司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70176923)
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研究分担者 |
飯久保 智 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (40414594)
徳永 辰也 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40457453)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 金属物性 / 熱力学 / 格子欠陥 / 粒界構造 / アモルファス |
研究実績の概要 |
本年度は粒界相モデルを用いてFe中での添加元素の偏析係数を熱力学的に計算した.計算は熱力学的に解析された2元系合金における自由エネルギーを用いて,粒界相モデルにより偏析係数を評価した.この際粒界の自由エネルギーには液相の熱力学量を用いた.これはランダム粒界では,3原子程度の領域を持つ結晶粒界で結晶粒同士の原子配列を補正するために,結晶粒界では原子配列が大きく乱れ、アモルファス状態になっていると考えられるためである.計算の結果Bは添加量が小さい領域では偏析係数が104から105という非常に高い値を示すが,通常の添加量では103のオーダーと考えられる.Pはそれよりも1桁小さい程度の偏析量で,Cは10倍から100倍の間,Mnはほとんど偏析しない結果となり,B,P,Mnについてはだいたい実験結果をよく再現できる結果が得られた.しかしCは実験的には偏析係数がもっと高いと考えられるため,Fe-C2元系における固相の自由エネルギーを,本研究で開発した侵入型溶体におけるクラスター変分法により計算し,その結果を用いてこの2元系を再解析した.一方液相の熱力学量の理論計算として,昨年度は第一原理分子動力計算の結果をOrnstein-Zernike方程式により解析して直接相関関数を評価する手法を用いたが,計算過程が複雑であることから,本年度は速度自己相関関数のフーリエ変換から得られる液相原子の状態密度を気体成分と固体成分とに分割する2-phaseモデルで解析を行った.この計算法のスキームは確立できたので,この方法を用いてFe基合金液相の自由エネルギーの理論計算を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの3年間の研究により次のような知見が明らかになった. 1. 粒界構造をアモルファス構造(これは有限温度では液相の構造に近似できる)と仮定した場合,その自由エネルギーから計算される粒界偏析エネルギーが実験結果と非常によく一致する. 2. 第一原理計算とクラスター変分法を用いて精密に評価された固溶体相の自由エネルギーとアモルファス相のそれを用いて粒界相モデルにより熱力学的に計算された偏析係数は実験による知見とよい対応を示す. 3. 急冷凝固装置を用いてFe-B2元系合金を作成し,それを加熱したところFe23B6の生成が確認された.この結果よりアモルファス構造中では必ずしも最終的な安定構造ではなくナノ準結晶や非平衡析出物であり,アモルファス合金ではFe原子の作る三角プリズム的配列がそれぞれの辺を共有しながら繋がり,ランダムネットワークを構成していることが推測された.この構造の原子配置に基づいて第一原理的手法を用いて計算したFe23B6の生成エネルギーは,熱力学計算による液相の自由エネルギーと対応関係があることがわかった. これらの結果から,本研究の目的である粒界偏析の本質が粒界の無秩序構造に溶質原子が固溶する,アモルファス構造の安定化過程であることを実証できる結果が得られつつある状況である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度はこれまでの研究経過を踏まえて,アモルファス(液相)の自由エネルギーと非平衡析出物,さらに粒界構造の理論的解析から予測されている粒界の多面体構造の生成エネルギーとの比較を第一原理計算により遂行する.これに関連して第一原理分子動力計算による液相の自由エネルギーの評価手法についても検討を行い,アモルファス(液相)状態の熱力学的物性が不明である合金系の解析を行うことができる環境を確立する.さらに,たとえばFe中におけるBの粒界偏析は,NbやMoの添加により助長されるという実験事実があり,これは一般に母相中でのBと添加元素の間の相互作用に基づく共偏析現象として知られている.そこで非平衡析出相へ添加元素を加えた場合の構造安定性を第一原理計算によって評価し,粒界エネルギーへの寄与を計算により明らかにする.さらにBとMo,Nbなど工業的に重要な添加元素について,粒界相モデルを用いて偏析挙動を計算し,共偏析現象の本質の解明に努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
アモルファス構造の第一原理計算を行うために東北大学のスーパーコンピューターを使用しているが,電力事情の悪化により長期間のサービス停止が行われ,研究の遂行に支障が出ていることから,コプロセッサーを有する並列型計算機を導入し,さらに計算ソフトウェアについてもこのような計算機にチューニングされたコードを用いることにした.このソフトウェアを最終年度に購入するために次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
年度当初からソフトウェアのテスト計算を開始し,7月を目標に計算環境を整備する予定である.
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