研究課題/領域番号 |
24360272
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中島 章 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00302795)
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研究分担者 |
松下 祥子 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (50342853)
磯部 敏宏 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20518287)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 撥水 / 水蒸気 / 酸化物 / シロキサン |
研究概要 |
昨年度は申請者らが独自に発見した常圧下での「水蒸気プロセス」により、各種酸化物表面が優れた撥水性能を示すようになる機構について、様々な分子形態のシロキサン(末端に水酸基やカルボキシル基を持つもの)を用いて検討した。実験には、昨年作製した高純度N2ガスを用いた水蒸気プロセスを行うライン装置を用いた。その結果、(1) 末端にカルボキシル基を持つシロキサンは、末端に水酸基を持つシロキサンよりも、このプロセスでの撥水性付与の効果が大きい、(2) 水蒸気とCVDの同時処理よりも、それぞれの処理を逐次的に行った方が、水蒸気とシロキサンとの競争吸着を回避することができ、短時間で均質な撥水表面が実現できる、(3) 水蒸気処理は酸化物表面の撥水のための前処理として、真空紫外光照射と同等の効果が得られる、といった点が明らかになった。また、静的な撥水性と、動的な撥水性とでは、撥水性シランと比較して、顕著な違いは得られなかった。昨年度と本年度の検討から、本プロセスで起きていることは、いわばシロキサン源の常圧水蒸気CVDと呼べるものであり、水蒸気による酸化物固体表面のエッチングと、それにより生成した水酸基への、撥水剤の効果的な反応や吸着が起こることが判った。これら一連の結果から、この水蒸気処理は、酸化物表面の撥水処理の前処理として優れており、平坦な表面だけでなく、真空紫外光の照射等では均一な実施が困難な、凹凸が多い表面において、特に効果的であることが考えられた。今後は、その方向での特性を検討する必要性が高まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度想定していた実験項目は、ほぼ実施できた。唯一、原子間力顕微鏡による固体間摩擦の検討は、着手しているものの、まだ明確な知見は得られていない。しかしながら一方で、凹凸が多い酸化物表面での特性改良に使用できる新たな可能性が得られた。このことは、超撥水表面への展開を可能にし、「膜」や「固体表面」だけではない、「粉」への適用の可能性も考えられる。 本研究の当初目標である、常圧下での水蒸気プロセスの機構解明は、ほぼできた。またその適用範囲も、水にエッチングされやすく、水酸基を多く持つ酸化物に特に有効であることをすでに知見した。残る課題は、このプロセスから得られる撥水表面の更なる特徴づけと、これを用いた機能材料創製である。超撥水表面は流動抵抗緩和や着雪防止技術への展開も想定され、省エネルギーに繋がる表面機能材料の開拓を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度の実績を踏まえ、①平坦面での更に詳しい効果の検討と、②平坦でない酸化物表面への適用を検討する。 ①では、引き続きシリコンやアルミナの表面を用いて、この処理で得られる表面の性能について詳細に検討する。まず原子間力顕微鏡を用い、この方法で撥水処理した表面についてカンチレバーとの間の固体間摩擦抵抗を測定する。そしてこのプロセスから得られる撥水の耐熱性、耐摩耗性についての評価を行い、既存のシランによる撥水表面と比較してその特徴づけを行う。この処理は、昨年度の知見から、水蒸気処理とCVDを逐次的に行う方法で実施する。 ②では遷移アルミナやベーマイト、シリカなど表面の水酸基濃度が比較的高い物質を用いて、凹凸の大きい表面を形成する。作製方法は、分相、選択溶解、昇華法などを考えており、必要に応じて水熱処理も検討する。これらに対して水蒸気処理を行い、その上でカルボキシル基を持つシロキサンまたはシランをCVDによりコーティングして、高度な撥水性を有する酸化物固体表面を作製する。得られた材料に対して静的・動的撥水性の評価や、それらの耐久性試験を行う。比較試料として水蒸気なしのものや、真空紫外光照射による前処理のみを実施した試料作製し、本プロセスから得られた試料の特徴づけを行う。 計算科学的なアプローチによるエネルギー計算については、昨年度に引き続き、本年度も実施する。さらに各種酸化物粉末に対して水蒸気処理を行い、極性や表面エネルギーが異なる様々な溶剤へ、処理した粉末を添加し、ゼータ電位や沈降体積の計測から表面改質の効果について評価を行う。
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