研究概要 |
Na_2O-CaO-SiO_2系ガラスを80℃のリン酸塩水溶液に浸漬すると,ガラス表面からc軸配向性のヒドロキシアパタイト(HAp)のロッド配列構造が形成する。本技術を発展させることにより,生体アパタイトの高次構造を模倣するための結晶配向性の制御技術の開発を目的として,B_2O_3あるいはP_2O_5をNa_2O-CaO-SiO_2系ガラスに添加し,HApへの転換率およびHApロッド配列構造の結晶配向性を調べ,ロッド配列構造の形成機構を明らかにした。まず,20Na_2O・25CaO・xB_2O_3・(55-x)SiO_2(mol%)(x=0,5,10)ガラスを作製した。(それぞれBO,B5,B10と表記)リン酸塩水溶液に浸漬前後のガラス試片の重量から重量減少率およびHApへの転換率を求めたところ,B_2O_3の添加率が増加するほど重量減少率および転換率は減少し,pH変化は小さくなったことからB_2O_3の添加により,ガラス試片の加水分解反応速度が低下しHApの形成が阻害されたと考えられる。また,7日間浸漬後のガラス試片のXRDパターンから,検出された全てのピークはHAp(PDF#09-0432)に帰属され,20=26.0゜および53.0゜にそれぞれ002面,004面に帰属される強いピークが観察された。回折強度からHAp結晶のc軸方向へのLotgering配向指数を算出したところ,BO,B5,B10はそれぞれ0.79,0.41,0.26であった。このことから形成したHApのc軸方向への配向性がB_2O_3を添加するほど低下したことが分かった。 一方,リン酸イオン種を所定量添加したアルカリ土類金属系ケイ酸塩ガラスの構造中にはHApの結晶構造中と同様にオルトリン酸イオン(PO_4^<3->)種が存在することを^<31>P固体NMR分光法によって明らかにした。(1-0.01x)(20Na_2O・25CaO・55SiO_2)・xP_2O_5(mo1%)(x=0,3,5)ガラスを作製した。(それぞれPO,P3,P5と表記)リン酸塩水溶液中に浸漬するとガラス表面に存在するP(V)(PO_4^<3->),Ca(II)イオン付近でアパタイトの核形成が誘起され,生成した核は,ガラスの溶解反応が進行するに伴い,水和シリカゲル反応層を介してガラス中のPO_4^<3->,Ca(II)イオン種と溶液中のP(V)イオンを取り込みながらガラス内部に向かって連続的に下方成長したと考えられる。SEM画像から求めたHApロッドの直径および長さは,POスとP3ガラスではほぼ同じであったのに対して,P5ガラスではPOガラスのものに比べて直径が約5倍,長さが約200倍であった。P5ガラス構造中のPO_4^<3->及びCa(II)イオンと溶液中のP(V)イオンが水和シリカゲル反応層を介して、HApロッドの成長末端に連続的に取り込まれることで、HApの結晶が大きく下方成長したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,HApロッド配列構造の化学組成,赤外分光法あるいはラマン分光法により分子構造の解析を実施し,^1H,^<13>C,^<29>Si,^<31>P等の核種に関するID及び2D固体NMR分光法により局所構造の精密解析を実施する。特に,表面の「構造の乱れ」に焦点を当て,CO_3^<2->,PO_4^<3->周囲の1nmレンジ以内の局所構造解析を行う。
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