研究概要 |
Ag/Ta205/Pt素子において,量子化コンダクタンスが発現し,そのコンダクタンス状態を電圧パルスにより制御できることを見出した。これは,酸化物ナノ薄膜のMIM構造においてもアトミックポイントコンタクトが実現されていることを示しており,この素子を原子スイッチと呼ぶことが正当化された。また,閾値よりも小さい電圧パルスでも短い時間間隔で連続して入力すると,素子のコンダクタンスは次第にある量子化整数値に安定していくことが見出された。これは入力頻度に応じて伝達効率を増大させるシナプスの長期増強現象と同じ動作であり,従来の半導体素子では10個以上の素子と複雑なプログラミングが必要であったシナプスの動作を単一の原子スイッチ素子で再現できる可能性を示唆している。 高速パルス印加におけるCu/Ta_2O_5/Pt原子スイッチ素子のスイッチ速度を評価した。平面導波路構造中に素子を作り込み,2GHz以上の広帯域特性を有するインピーダンス整合を取った計測系を構築することで,抵抗損失によるパルス電圧の反射やリンギングを抑えてナノ秒のOFF状態からON状態へのSET速度の観測に成功した。SET時間はパルス電圧の増大とともに指数関数的に減少し,3V程度の電圧で1ns以下になることがわかった,この結果は,酸化物原子スイッチが高速のスイッチングメモリー応用に有望であることを示唆している。原子論的核形成理論との比較から,Pt電極上のCuの核形成がSET時間を決定する律速過程になる可能性が高いことを見出した。 クロスポイントMIM構造のCu/Ta_2O_5/Pt素子に対するフォーミング後の電流検出AFM(CAFM)測定により,ナノフィラメントの形成位置を特定することに成功した。特定した形成位置で断面TEMを観測した結果,フォーミング時の大きなON電流により,Ta205がフィラメント形成位置付近で結晶化していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAFMと断面TEMの組み合わせにより,ナノフィラメント形成位置の特定とその断面観察の手法確立は本研究の大きな目標であり,1年目に達成できた。近接場光学顕微鏡(SNOM)による同様のアプローチは,申請者がドイツ・アーヘン工科大学に短期研究留学をしているため遅れているが,電気化学計測法による金属/Ta_2O_5界面の酸化還元反応の詳細など当初予定していなかった成果も得られており,おおむね順調に進展している。
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