研究課題/領域番号 |
24360278
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鶴岡 徹 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (20271992)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 抵抗変化メモリ / アモルファス酸化物 / 原子スイッチ / 金属イオン伝導 |
研究実績の概要 |
前年度の成果に基づき,Cu/Ta2O5/Pt構造の抵抗スイッチ動作におけるTa2O5膜の影響を調べた。 Ta2O5膜はスパッタ(SP)法と電子線蒸着(EB)法により成膜した。XRR測定から,膜密度はそれぞれ7.6および6.8g/cm3と見積もられ,EB膜の方が低密度であることがわかった。XRDは両膜ともアモルファス状であることを示した。 それぞれのTa2O5膜を用いたCu/Ta2O5/Pt素子は,バイポーラ型の抵抗スイッチ動作を示した。大気中測定と真空中測定を交互に繰り返しながら,フォーミング,SET,およびRESET電圧,ON抵抗値の変化を調べた。その結果,フォーミングおよびSET/RESET電圧はSP膜ではほとんど変化しないが,EB膜では大気圧で減少が見られた。また,ON抵抗もSP膜は一定であるが,EB膜は大気圧で一桁増大することがわかった。これらの変化は可逆的であることも確認した。EB膜の真空中の結果とSP膜の結果が一致することから,大気圧におけるEB膜において付加的な機構があることが推察される。 FTIRからは,Ta-Oの結合状態に違いがあり,EB膜の方がより多くの水分が残留していることを示唆された。また,XPS測定からはEB膜の方がより多くの亜酸化タンタル成分を有することが示され,これがEB膜の低密度に寄与していると考えられる。すなわち,EB膜はより多くの未結合手が水分子と結合した状態をとっている。この残留水分がCu/Ta2O5界面のCuイオン化とTa2O5膜中のCuイオンの伝導を促進していると考えられる。これらの残留水分は真空中で容易に離脱し,イオン化とイオン伝導を阻害するため,フォーミングおよびSET電圧の増大を引き起こす。これはアモルファス酸化物に共通の現象であり,他の酸化物を用いた抵抗スイッチ素子でも考慮しなければならない機構と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アモルファス酸化物中の金属イオン伝導を利用した抵抗変化メモリの,一般的且つ包括的な動作機構が明らかになってきた。本成果は当該分野に与えるインパクトも大きいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
電子線蒸着膜を用いて,制御された湿度下での抵抗スイッチ測定に取りかかっている。この測定から抵抗スイッチ動作と湿度の関係を明らかにし,湿度センサーへの応用を検討する。 今後は,Ta2O5結晶化の抵抗スイッチ動作へ影響,陰極金属材料の効果を明らかにし,酸化物ナノ薄膜を用いた原子スイッチ型抵抗変化メモリの包括的な動作機構解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に,酸化物原子スイッチ素子の抵抗変化動作における酸化物ナノ薄膜密度の影響を明らかにする実験を行い,その結果を論文にまとめるとともに学会で発表する予定であった。しかし,抵抗変化動作が素子周囲の湿度に大きく依存することがわかってきた。動作原理を完全に理解するためには,膜密度と湿度の関係を明らかにする必要があるため,計画を変更し相対湿度を制御した実験を行うこととしたため,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
抵抗変化動作の相対湿度依存性を明らかにする実験と学会での発表を次年度に行うこととし,未使用額はその経費に充てる。
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