1年延長した今年度は,Cu/Ta2O5/Pt構造の酸化還元反応と抵抗スイッチ動作に対する酸化膜吸湿挙動の影響を調べた。 既存の真空プローバーに乾燥窒素と水和した窒素を混合したガスを導入し,その流量比を変えることで所望の相対湿度を実現する湿度制御システムを構築した。これを用いて,サイクリックボルタンメトリ(CV)測定により,Cu/Ta2O5界面の酸化還元反応と湿度の関係を調べた。その結果,湿度の増大とともに酸化還元に伴う電流ピークは大きくなり,ピーク位置は複雑な動きをすることがわかった。これは,Ta2O5膜の吸湿により酸化還元反応が促進される一方で,律速過程が電極反応とイオン拡散の間で入れ替わっている可能性を示唆している。また,CV測定とRndles-Sevcik方程式から見積もられるイオン濃度は湿度とともに上昇する。一方,拡散係数は湿度の増大とともに小さくなるが,40%以上で大きくなる。ある湿度レベル以上ではCuイオン以外の伝導の寄与があることが予測される。 同様の湿度範囲で測定した電流―電圧(IV)測定からは,湿度40%までは通常の不揮発性バイポーラスイッチ動作を示した。しかし,40%以上では高抵抗状態から低抵抗状態に遷移するSET電圧が著しく低下し,バイアス電圧を切ると直ちに高抵抗状態に戻る揮発性動作に変化する。この不揮発―揮発間の動作変化は可逆的であり,湿度が極めて大きな影響を与えることがわかる。こられの実験結果から,高湿度下では吸着水に由来するプロトンがスイッチ動作に寄与していると考えられる。 以上の振る舞いは電子線蒸着法で堆積した低密度のTa2O5膜に対するものであり,スパッタ法で堆積した比較的高い密度のTa2O5膜では観測されない。低密度膜ではより多くの水分吸着が起こることがこれまでの本研究からわかっており,今年度得られた結果も我々の結論を支持している。
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