研究課題/領域番号 |
24360281
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
菅野 未知央 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 研究機関講師 (30402960)
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研究分担者 |
町屋 修太郎 大同大学, 工学部, 准教授 (40377841)
菖蒲 敬久 独立行政法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (90425562)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 放射光 / 内部ひずみ / 高温超伝導体 |
研究概要 |
平成25年度は、低温X線引張装置の設計、製作を行った。引張装置部分の全体設計は、SPring-8のBL46XUおよびKEK/PFのBL4Cのいずれにも取り付け可能になるように、取り合いを検討した。引張装置の取り付けを上下反転させることにより、いずれのビームラインでも実験可能な設計を見出した。さらに、REBCO超伝導体の3軸ひずみ状態を測定するため、線材の軸方向、幅方向、厚さ方向のいずれの場合にもビームパスが確保される設計とした。 引張装置のクライオスタットビーム入射部はビームの透過性を検討した結果、厚さ4 mmのアクリル円筒を採用することにした。試験片の冷却は、冷凍機伝導冷却される引張装置のフランジ部分と高純度アルミ製の可撓導体で接続された銅製のつかみ具を介して行った。つかみ具に温度センサーとヒーターを取り付けることで上下のつかみ具を独立に温度制御できるようにした。 駆動部分にはサーボモーターを採用し、スモールスクリュージャッキと組み合わせて、2 kNの最大荷重、引張速度0.1 mm/minを満足する構成とした。これらは前年度に整備した、制御装置により荷重制御、ひずみ制御のいずれも可能な仕様となっている。引張試験中の上下つかみ具のアライメントを維持するため、可動側つかみ具はリニアガイドに取り付けた。異なる構成材料を用いた場合の熱収縮による噛み込みを防ぐため、オールステンレス製のリニアガイドを採用した。 上記のような低温X線引張装置の設計、製作を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は低温X線引張装置の設計、製作までを完了した。次年度以降の放射光ひずみ測定の実験効率の向上を考えると、SPring-8とKEK/PFのいずれにおいても使用可能な設計とする必要があった。そこで、各ビームライン担当者と打ち合せを行い、回折計の構造と引張装置の可動領域をつきあわせながら全体設計を見直すことで要求を満足する構造を見出すことができた。引張装置内部の伝熱リンク取り合いの検討に最も時間を費やした。ビームパスを確保しつつ、十分な断面積のアルミ可撓導体を配置することに苦労したが、熱伝導率の高い高純度アルミを使用することで、熱リンクの断面積を極力低減し、可撓性を有しつつクライオスタット内部に収まる伝熱ルートを確保することができた。実験装置の製作が完了したことで、平成26年度からは、冷却試験および引張試験を実施することができ、今年度中に放射光施設での実験が可能な目処が立った。以上のような理由から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、まず昨年度導入した低温X線引張装置の動作確認を実施する。本装置の一番の課題は2 mの伝熱線を介したGM冷凍機による試験片つかみ具の冷却である。現在の設計で最低到達温度とそれに要する冷却時間を確認する。伝熱線自体の熱伝導は十分であるが、接続部分の熱抵抗に不確定要素がある。もし、冷却特性が不十分だった場合は、端子部の構造の変更や、つかみ具自体を周囲から熱絶縁して熱容量を減らすなどの改良を施す。 もう一つの予備試験は低温での引張試験である。冷却中は荷重制御し、測定温度に到達した後、ひずみ制御に切り替える。これは、放射光ひずみ測定中に試験片のひずみを一定に保つために不可欠であるが、平成24年度に導入した制御装置と組み合わせて、制御切り替えの際の不安定性がないかどうかを確認する。その後、77 Kで引張試験を実施し、別途市販の引張試験機で液体窒素中で同じサンプルを試験した結果と比較し、荷重とひずみの精度を確認する。荷重は、クライオスタット外部の室温部に置かれたロードセルで測定するが、真空部との境界にベローズが存在するため、荷重にはこの変形による抵抗が重畳する。これが、許容範囲を越えた場合は、クライオスタット内部の低温部にロードセルを追加する。既にその設置スペースを見越した構造になっている。 装置の動作確認後、SPring-8、KEK/PFで放射光ひずみ測定を実施する。まず、無負荷で冷却途中の各温度で超伝導体の格子定数を測定し、熱残留ひずみの温度依存性を評価する。その後、低温で引張ひずみを負荷した状態で超伝導体の格子ひずみ変化を長手、幅、厚さの3方向から測定する。この測定は、20 K~77 Kの間の2温度で実施する。これと同じ温度で臨界電流のひずみ依存性も測定し、両者の比較を行う。以上の結果から、臨界電流のひずみ特性の温度依存性が格子ひずみ、すなわち粒内のひずみ状態の変化で説明できるかどうかを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
KEK/PFでの実験で低温X線引張装置を回折計に取り付けるフランジの設計をH26年度に持ち越した。この治具は、引張装置の可動範囲をなるべく大きく取る設計にするために、現物合わせが不可欠であり、引張装置本体の納品後でなければ、設計できないという事情があったた。そこで、製作をH26年度に延期し、治具代を繰り越した。 H26年度に当初の予定通りに、取り合い治具の製作費として使用する予定である。
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