研究実績の概要 |
金属強磁性体薄膜/酸化物界面にはたらく界面磁気異方性が外部からの電界の印加によって変化する現象が注目されている。本研究では,効果の大きさを決定する因子として界面を構成する元素とその化学状態に着目し,電界効果の大きさとの相関の解明を試みた。CoFeB超薄膜上へ酸化物を堆積する積層順を採用したところ酸化物の種類による違いが強く現れた。酸化物をAl2O3,MgO,Y2O3,ZrO2と変えて比較したところ,Y2O3は相対的に効果が弱く,ZrO2は強くなる傾向が見出された。これらの酸化物とCoFeBの界面では,酸化物の堆積及びその後のアニール時にCoFeBの酸化反応が進行しており,その反応量をXPS解析により推定したところ,特にY2O3ではCoFeBとの反応性が高く,酸化物中へCoやFeが多く含まれることが判明した。従ってCoFeBの酸化反応の進行に伴って電界効果が劣化するものと予想できる。次に,酸化物をAl2O3としたスタックにおいて,Al2O3の堆積前に意図的にCoFeB表面を酸素雰囲気に曝露してからAl2O3の堆積を行うことでCoFeBの酸化を助長させたところ,電界効果を増大させるには酸素への曝露を最小化するのがよいことが分かった。このときXPSで観察されたCoやFeの酸化物とCo金属及びFe金属の信号強度比からCoFeB表面に直接結合する酸素の面密度を概算で推定したところ,CoFeB層を部分的に覆う程度の密度であった。これは酸素がCoFeB全面を覆ってCo-O結合やFe-O結合を規則正しく配置した界面よりも,酸素が不足して一部は金属結合で構成される界面とする方が有利となることを意味する。このように界面の磁気異方性に対する電界効果の増大には界面でのCoやFeの酸化反応の抑制が有効であり,界面反応性の低い酸化物の選択や,酸化を強く抑制した界面形成条件の適用が望ましい。
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