研究概要 |
(Ca,Mg,Zn)基化合物材料の候補として本年度はCa-Mg-Si,Ca-Mg-Znという2つの三元系組成に着目し,まずは単体として優れた特性を有する化合物材料の探索に着手した.まずCa-Mg-Zn 3元系では化合物としてMg_2Ca,Mg_2Si,Ca_2Si,MgCaSi各相に着目し,雰囲気を制御した溶製法によりインゴットを作製した.このインゴットより試験片を切り出し浸漬試験を行ったところ,実際に化合物化により純金属と比較した大幅な反応性の低減が確認され,新材料開発の可能性が示唆された.すべての試料で浸漬試験開始直後に急激なpH値の変化を示したが,浸漬24時間以降はほぼ一定値を推移した.浸漬試験における安定時の溶液pH値はMg_2Ca>Ca_2Si>CaMgSi>Mg>Mg_2Siの順に高い値を示し,この順が反応性の尺度となることが見出された.実際にMg_2Si化合物においては,純Mgと比較しても250時間浸漬後においてほとんど質量変化がなく,化合物化による溶解性の大幅な向上が実現された。本化合物の浸漬エキスを用い細胞培養を行うことで生体毒性評価を試みたところ,Mg_2Si 50%エキスとMg 50%エキスとの比較において,Mg_2Siにおける細胞生存率の大幅な低減抑制が確認され,Mg_2SiはMgの溶解量を低減することによって,高い生体親和性を示すことが明らかとなった.しかし一方で,その他のCa含有化合物群においては,化合物化により純Caと比較して大きな反応性の低減が期待通り実現されたものの,その溶解速度値は一般的なMg合金における値約10mm/yearと比較すると依然として高く,生体内インプラント材料として適応するには更なる溶解性の制御が必要不可欠なことが明らかとなった. この結果を踏まえ,現在さらにCaを含有する溶解性金属材料の開発を実現すべく,合金系をCa-Mg-Zn系に拡張し研究を進めている.特に,広い固溶域を有するCa_3Mg_xZn_<(15-x)>相などに着目し,Zn濃度の制御による溶解速度の制御可能性について,電気化学的実験等による詳細な評価の元に,検討を行いたいと考えている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ca-Mg-Si系については3元系中に存在する化合物の特性評価が概ねすべて終了し,特にMg2Siについて,新材料としての非常に有望な特性の発現が確認された. またCa-Mg-Zn系についても,三元系状態図の確認がほぼ達成され,開発に向け有望そうな幾つかの相が発見された.25年度以降.これら各相のより詳細な特性評価へと繋げていきたい.
|
今後の研究の推進方策 |
上述の通り,Ca-Mg-Zn系において特にZn-rich組成における化合物の特性の詳細について,昨年度導入したポテンショ・ガルバノスタットを用いた電気化学的測定により明らかにして行きたい.更にこの成果を基に,「複相解性金属材料」というこれまでに例のない材料開発の実現を目指し,検討を進めて行きたい.
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では,各種合金作製を研究室内で実施するための溶解炉(803万円)の購入を申請していたが,実際の交付予算ではこの購入が実現できなかったため,助成金の残余が生じた.この助成金は,装置が購入できなかったため作製が困難となった高融点金属含有材料について外部に作製を委託するための費用として使用するとともに,引き続きより低価格な溶解装置の購入可能性について検討を行う.
|