研究概要 |
ステンレス鋼やアルミニウム合金の結晶構造である、面心立方(fcc)構造を有する金属材料の理想強度までの高強度化に必要な因子を基礎的に探索することを目的として、昨年度に引き続き、Al-Zn-Mg系合金を用いた検討を実施した。本系については、転位運動を著しく高強度レベルまで抑制するナノ組織がHigh Pressure Torsion (HPT)加工中に生成することが報告されており、昨年度は、Zn, Mg, Cu, Cr, Feの添加量を変化させたAl-Zn-Mg 系合金および本系を基本組成とする市販7075合金のHPT加工材を試料として用いて強度評価を実施した。その結果、CrおよびFeを含む合金は比較的優れた強度特性のバランスを示し、例えばAl-10%Zn-2%Mg-2%Cu-0.25%Cr-1Fe合金は、HPT加工後に920MPaの引張強さと、5.5%の伸びを示した。本年度は本系合金の強化機構を解明する目的で、7075合金HPT加工材の組織解析を、電子顕微鏡や3次元アトムプローブ(3DAP)を用いて実施した。その結果、わずか10分間のHPT加工により、結晶粒径は100~200nmまで微細化すること、また加工前には母相中に均一に固溶していた主溶質元素(Zn、Mg、Cu)が、HPT加工後には結晶粒界上に濃化することが判明した。結晶粒の微細化は、加工に伴う転位密度の上昇、動的回復・再結晶の過程を経た結果と考えられる。溶質元素の粒界濃化は、通常の拡散現象とは異なり、HPT加工中の巨大なせん断ひずみ導入に伴う原子の移動に起因するものと推察される。このような既存のプロセスとは異なる組織変化が、HPT加工による顕著な高強度化の主因と考えられる。
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