研究概要 |
本研究は,申請者らが最近見出したプロトン伝導性ZrO_2-WO_3アノード酸化膜を薄膜電解質とする中温燃料電池の開発を目指すものである。このアノード酸化皮膜ははじめて見出されたプロトン伝導性アノード酸化皮膜であり,200℃以下で燃料電池の電解質として応用可能な低い電解質抵抗を示す。また,120nm以下で膜厚の減少とともにイオン伝導率が一桁以上上昇するスケーリング現象を発現する。このような興味ある電解質材料を用いて,燃料電池セルの作製を行った。膜厚100nm程度の薄膜電解質を用いる場合,多孔質電極上にこれを製膜することは容易でなく,機械的な信頼性も乏しくなることから,アノードとして水素透過膜を用いた薄膜燃料電池の作製を試みた。水素透過膜として唯一市販で入手可能なPd箔を用いた。Pd箔に直接マグネトロンスパッタ法により50nm程度のZr-W合金を製膜した場合,合金膜中のピンホール欠陥が存在し,電解液の浸透によりPd膜上でガス発生が起こり,均一な電解質膜の形成が困難であった。欠陥をなくすためにZr-W合金を300nm程度まで厚くすることで,150nm程度の均一な電解質膜を作成できた。しかしこの場合,Pdとこの電解質薄膜の間にZr-W合金膜(約200nm)が残り,出力試験の結果,この合金膜の水素透過能が低いため,起電力も出力も低い結果となった。 そこで,Pd上に数十nm厚さのプロトン伝導膜を中間層としてスピンキャスト法で導入し,アノード酸化時のガス発生を抑制することを試みた。その結果,Zr-W合金を完全にアノード酸化して電解質膜を得ることが可能となった。ただし,この場合でもPd膜の表面平滑性を高める必要がある。
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