外部加熱を必要としないワンポットプロセスによって、リチウムイオン二次電池正極材料を構成する多孔質複合粒子を直接合成できれば、画期的な省エネルギー製造プロセスが実現する。そこで本研究では、近年注目されている陰イオン骨格がリンと酸素の二種類のイオンから成るリチウム系材料を対象として、原料粉体界面への圧縮・摩擦的作用に基づく局所的特異場を適用することにより、非加熱による多孔質複合粒子の作製を試みた。 平成24年度には、正極材料としてリン酸鉄リチウムナノ粒子を選定し、原料粉体として、炭酸リチウム、シュウ酸鉄、並びにリン酸二水素アンモニウムを使用した。その結果、外部加熱を施さずに原料粉体の機械的処理のみにより、リン酸鉄リチウムナノ粒子の合成に成功した。 そこで平成25年度には、本法によるナノ粒子の合成に及ぼす諸条件の影響を基礎的に検討するために、既に合成実績のあるランタン・マンガン系の複合酸化物を対象として、原料粉体の種類、処理エネルギーなどが合成プロセスに及ぼす影響を検討した。その結果、原料粉体によって合成プロセスは大きく影響されること、また処理エネルギーが大きいほど、合成は短時間で進むことなどを明らかにした。これらの知見を踏まえ、炭酸リチウムの代わりにリン酸リチウム粉体を使用することにより、短時間でリン酸鉄リチウムナノ粒子を合成できた。さらに、原料粉体にカーボンナノ粒子を微量添加することにより、ナノ粒子の合成と同時に、合成されたナノ粒子とカーボンが複合化した多孔質複合粒子の合成に成功した。 平成26年度は、リン酸リチウム粉体を用いた大気圧下の処理により、放電容量が高く、サイクル特性も良好なリン酸鉄リチウムの多孔質複合粒子の合成に成功した。また、このプロセスを他の活物質の合成にも適用した結果、スピネル系の材料において良好な電池特性を示す多孔質複合粒子を作製することができた。
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