研究課題/領域番号 |
24360318
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮原 稔 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60200200)
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研究分担者 |
田中 秀樹 京都大学, 工学研究科, 講師 (80376368)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 吸着 / 細孔壁ラフネス / 細孔壁原子密度分布 / 分子シミュレーション / 極低温TPD-MS |
研究概要 |
申請者らは長年,分子シミュレーションと実験測定の双方を活用し,細孔径に代表されるナノ空間の特性評価手法を,ミクロな視点から構築し,ナノ多孔体を用いる諸操作論の基礎固めに尽力してきたが,本研究では特に,これまで見過ごされてきた感のある,細孔内表面を構成する原子が生み出すラフネスに着目している。すでにH24年度までに,均質ナノ多孔体を題材に,原子ラフネスを取り込んだ分子シミュレーション系を構築し,吸着・凝縮挙動に顕著な影響を与え得ることを明らかとしているが,モデルに設定すべきラフネスの指導原理については任意性が残されている。そこで,本研究では極低温He物理吸着TPD-MS測定を計算科学と併用することで,合理的なラフネス同定法を構築し,表面と空間という,統合的なナノ空間の特性評価手法に結実させることを目指している。本TPD-MS装置は,物理吸着系への極低温環境(~4 K)の導入によって,吸着力の弱いHe原子に対しても,その物理吸着エネルギーが相対的に熱エネルギーをはるかに凌駕するような状態を創出することで,昇温脱離法を適用可能とする着想に基づくものである。 H25年度はTPD-MS装置の立ち上げ作業を実施した。また,メソポーラスシリカMCM-41に加え,SPring8での小角X線回折データの解析によって得られたSBA-15の電子密度分布を用いたAtomistic modelの構築を行った。SBA-15が持つ細孔壁ラフネスを適切にモデルに組み込むことで,その表面吸着・毛管凝縮現象を分子シミュレーションにより正確に再現することに成功した。現在,以上の検討によって得られた構造モデルが持つ吸着エネルギー分布の評価結果と,極低温He物理吸着TPD-MS測定による実験結果との比較検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度の達成目標としては,メソポーラスシリカのモデル構築手法の確立,およびTPD-MS装置の立ち上げ・実験開始を掲げ,以下のように,それぞれの目標を達成することができた。 SPring8での小角X線回折データの解析によって得られたメソポーラスシリカSBA-15の電子密度分布を用いたAtomistic modelの構築を行い,SBA-15が持つ細孔壁ラフネスを適切にモデルに組み込むことで,その表面吸着・毛管凝縮現象を分子シミュレーションにより正確に再現することに成功した。 吸着力の弱い物理吸着系の,しかも低圧領域での吸着エネルギー分布を測定するため,ターボ分子ポンプ排気系と極低温クライオスタットの組み合わせにより所望の温度(4 K~常温)に設定できる温調部を接続した吸着測定系を構築した。これにMS(四重極質量分析計)を接続することにより,TPD-MS装置を立ち上げ,実験データの取得を開始した。 現在,以上の検討によって得られた構造モデルが持つ吸着エネルギー分布の評価結果と,極低温He物理吸着TPD-MS測定による実験結果との比較検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
以下の四つの項目を実施・統合することにより,研究目的に掲げる統合的なナノ空間の特性評価法の確立を目指す。 1. メソポーラスシリカMCM-41およびSBA-15を対象に,実測の電子密度分布を達成するAtomisticモデルの構築手法を検討し,複数の構築手法の候補を提示する。つまり,細孔壁電子密度分布を標的関数に取り,grand canonical Monte Carlo法に準ずる削除・再生試行の繰り返しによって,電子密度を満足する細孔構造を定める手法や,電子密度の誤差に加え,吸着エネルギー分布での誤差の双方をペナルティとして取り込んだ評価関数を用いた方法を採用することで,電子密度分布と吸着エネルギー分布の双方を満足する細孔壁構造を定める手法を検討する。 2. メソポーラスシリカの吸着エネルギー分布をTPD-MS装置によって実測し,電子密度分布に矛盾の無い上記候補モデルと比較することで,定量的検証を行う。物理吸着の弱いエネルギーや可逆性の帰結として,熱揺らぎによる脱離ピークのブロード化が予想されることから,最適な昇温パターンやサンプルの粒径条件などの特定を行う。 3. 吸着エネルギー分布と細孔壁構成化学種の特性から,電子密度分布の情報を必要とせずに,原子ラフネスを推測する手法を構築し,実在系によって検証する。 4. 一般的な多孔質材料にも適用可能なラフネス評価法を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
極低温He物理吸着TPD-MS測定装置の測定効率を向上するための周辺機器の仕様を一部変更したため(仕様変更による機能低下は無い)。 次年度は,各種消耗品を購入し,実験項目を増加する予定。
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