研究課題/領域番号 |
24360326
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山口 猛央 東京工業大学, 資源化学研究所, 教授 (30272363)
|
研究分担者 |
田巻 孝敬 東京工業大学, 資源化学研究所, 講師 (80567438)
大橋 秀伯 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (00541179)
大柴 雄平 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (10708530)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 履歴 / 機能膜 / ポリアンフォライト / 分子認識 / 透過特性 / プラズマグラフト重合 / パーオキサイド基 |
研究概要 |
生体においては極微量のシグナル分子の存在を記憶することで、多彩で柔軟な生命現象を発現することが知られている。生体と同様に、微小な分子シグナルを履歴として記憶し、大きな出力へと変換する簡便なシステムがあれば、センサーから物質生産に至るまで非常に広範な応用が期待される。 正負双方の電荷を持つポリアンフォライトは、複数の相互作用の協調によりpHなどの履歴に応じて複数の準安定な相(多重相)を採りうる。本研究ではこのポリアンフォライトに分子認識部位(クラウンエーテル)を導入した分子認識ポリアンフォライトを創出し、これを多孔質基材にグラフトポリマーとして固定化することで、環境・分子シグナル履歴に応じて多様な機能を示すゲート機能膜の開発を目指している。 平成25年度においては、平成24年度までに開発を行った新規プラズマグラフト重合法を用いて、クラウンエーテルとアクリル酸をグラフト共重合した機能膜の開発を行い、その性能評価を行った。クラウンエーテルに認識されるイオン(K+やBa2+)が存在しないときは、機能膜の透過特性は通常の弱電解質と同様のpH依存性を示したが、認識イオンの存在下では、あるpHのところで透過特性の極大を示すという等電点的な挙動を発現した。これは今までに類を見ない特異な透過特性である。 これに加え、新規プラズマグラフト重合の特性解析も進んでいる。グラフト重合に用いるモノマーの種類を変えることによって、特にビニル基周りの電子状態に応じて、グラフト重合量のpH依存性が大きく変化することを見出した。この結果はエネルギー効率が良く、環境にやさしい表面修飾法である本手法の、機構解明につながる重要な結果であると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究においては、ポリアンフォライトに分子認識部位クラウンエーテルを加えた分子認識アンフォライトをグラフトポリマーとして持つ膜を開発し、その特性解析を進めることで、本機能膜の新しい特性を見出している。この際、膜基材を分解することによって、膜の特性解析に重要なファクターであるグラフトポリマーの分子量分布・数密度などの情報を得ることにも成功している。以上の進展は当初の計画に沿ったものである。 上記の検討に加え、本年度においては、新規プラズマグラフト重合法の特性解析に関しても検討を行っており、メカニズムに関する重要な知見を得ることに成功している。この点が当初の計画以上に進展していると判断した理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に開発した新プラズマグラフト重合を応用することで、平成25年度までに、pHに応答して負電荷を持つアクリル酸モノマーと、特定のイオンに応答して正電荷を持つクラウン環モノマーを、多孔質基材の細孔表面にグラフト共重合した機能膜を開発した。 環境と刺激双方に応答するこの機能膜には様々な特性が期待されるが、アクリル酸の解離状態および、クラウン環の特定イオン捕捉による荷電バランスを考察することで、化学的な論理ゲートとも呼べる先進的な挙動が理論的に予想される。これはpH/特定イオン濃度の双方が低/低のときにのみ細孔が開き、それ以外の条件、すなわち高/低,低/高,高/高の条件時には細孔が閉塞する挙動である。平成26年度には透過流速や浸透圧測定といった実験系を利用して、この特性の実験的な検証を目指していく。 pHによらない正電荷を持つMAPTACモノマーを要素として加えることで、さらなる制御特性を有する機能膜の作成も目指す。また、アクリル酸の水素結合の生成・解離を利用することで、分子・環境の履歴を検出できる可能性があり、この先進膜機能の実験的な検証も目指していく。さらに、新規プラズマグラフト重合法の機構解明を目指して、更なる高機能を有する膜を作成するための手法の確立を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
25年度に準備・投稿した2報の英語論文の英文校正・別刷り・カバー印刷が支払・納品に間に合わなかったため次年度への繰り越しとした。 26年度には上記の論文に関する執行を行う予定にしている。
|