研究課題/領域番号 |
24360328
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
杉山 茂 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (70175404)
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研究分担者 |
外輪 健一郎 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (00336009)
中川 敬三 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (60423555)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 新規反応場 |
研究概要 |
マイクロリアクタを使用することによって発生する酸素スラグ流を利用した酸素溶解度が格段に向上した反応場を利用して、1“Pd/Al2O3触媒によるプロピオンアルデヒドの酸化的エステル化(不均一系触媒反応)”と2“VOCl3触媒による乳酸エチルからピルビン酸エチルの酸化脱水素(均一系触媒反応)”の検討を行った。1については、マイクロリアクタ反応管壁面に極微量の担体(Al2O3)触媒しか塗布できず、触媒活性種であるPdもごくわずかしか担持できなかった。通常用いられている回分式反応器で、この反応の予備実験を行ってきたが、少なくとも数100 mg オーダーの触媒量と60℃の加熱が確実に行われている必要があった。しかし、今回のマイクロリアクタではこのような条件に適合させる事ができなかったため、この触媒反応に対しては、十分な新規反応場の効果は見られなかった。微量のPd触媒が過剰の酸素によって酸化され活性が発現しなかったことも一因と考えられた。そこで、室温で反応ができ、触媒が少量で行える均一触媒系の反応2を検討した。2については、新規反応場の適応によって、明らかに触媒活性は改善されたが、その改善の程度は数%にとどまった。今回の均一触媒系では、マイクロリアクタと回分式反応器を連結した形の反応器を制作し、回分式反応器からマイクロリアクタを通し回分式反応器に循環する形を取ったため、マイクロリアクタ部分以外の所でも反応が進行した。従って、マイクロリアクタ部分の加速効果が、回分式反応器によって相殺される可能性もあり、マイクロリアクタ部分でのみ反応が進行する触媒反応系で検討すべきという結論が得られた。 なお、本年度の交付申請書では、1について、Pdのレドックスを高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)において検討する旨記載したが、高エネ研の予算削減のあおりを受けて実施できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.提案した反応場に対して適切な反応を絞ることができた。 本年度の研究成果の実績に示したように、均一触媒系、不均一触媒系という触媒反応を二分する反応を平成25年度に一挙に検討することができ、今回提案した反応場の有効性を検討するためには、(1)100 mg以下の触媒量、(2)回分式反応器において30分以下の反応時間でも70%以上反応、(3)不均一触媒系で行わないとマイクロリアクタの特徴が反映できないと言う結論を得た。従って、具体的に反応を絞ることが可能になった。 2.適切な触媒を絞ることができた。 当初は酸素によるレドックスが進行しやすいPd触媒を念頭に置いていた。しかし、平成25年度の検討より、本反応系では酸素の反応溶液への溶解度が一段と高くなるため、一度酸化されたPdは酸化された後は、過剰酸素の存在により金属Pdへの還元が進行しなくなり、金属触媒が必須の本触媒系に不適切であることが明らかになった。例えば、金属触媒よりは酸化物触媒を用い、金属触媒のレドックスに着目するより、酸化物触媒上で起こる酸素の吸着-脱離に注目すれば、新たに構築された反応場を有効に使える可能性が見いだされた。従って、当初とは全く異なる視点で触媒を選択することができるようになった。 3.わずかであるが、明確な触媒反応促進効果が得られた。 今回提案したマイクロリアクタとスラグ流を組み合わせた新反応場は新規なもので、理論的には間違いないと考えているが、実際にこの提案を反映する結論が得られる可能性がわからず、この点を明らかにするため本申請を行った。当初の想定とは異なるが、当初の想定の検討の後に行ったVOCl3触媒による乳酸エチルからピルビン酸エチルの酸化脱水素(均一系触媒反応)を行ったことにより、明らかな触媒活性の加速効果が得られたことは、本研究の可能性を一段と高めてくれたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成26年度には、本年度までの結果に基づき、チタニア触媒による乳酸エチルからピルビン酸エチルの接触酸化脱水素反応の検討を行い、マイクロリアクタとスラグ流の組み合わせてできる新規反応場の有効性を本年度以上に明らかにしたい。この反応の利点を示す。我々の研究室ではこの反応に対する基本特性を既に検討済みで、この反応は、室温で良好に進行し、10 mg程度の触媒量で十分であり、反応開始直後に高い反応率を示すことが分かっている。つまり、不均一系触媒系において前年度までに確認された要求事項を全て満たしていることになる。また、マイクロリアクタの内壁にチタニア触媒を塗布する手法は、昨年度までに行ってきたAl2O3の塗布の際に用いたゾル-ゲル法で十分達成できるとともに、最近のゾル-ゲル法の進歩により、膜厚を厚くすることも容易である。従って、反応および触媒の双方向の面から、今回提案した新反応場に相応しい研究対象が得られているので、この触媒反応系を利用して研究を推進する。 具体的には、まず適切なチタニア薄膜の厚さを決定する。次に、最適な膜厚の条件下で、スラグ長比(酸素と溶液の長さの比)を変化させて、最適比を求める。最後にマイクロリアクタの全長の効果も検討する予定である。特に、今回提案した装置構成では、通常このようなマイクロリアクタを用いた場合、数十メートルを超えるマイクロリアクタ長が必要なく、数十センチで十分対応できることを示す。 触媒側の解析は、高エネ研での測定の可能性が予見できないので、研究室で保有している各種X線分析装置、吸着試験装置を用い、解析の結果、本システムに相応しい、結晶系、表面積等を明らかにしていく。 このような検討は、化学工学会で最も検討されており、化学工学会やマレーシアで開催予定の化学工学に関するシンポジウムで成果を発表し、本提案の妥当性をアピールしたい。
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