研究実績の概要 |
昨年度までに、サイトカイン受容体の細胞外ドメインを抗フルオレセイン一本鎖抗体に置換したキメラ受容体を構築し、主に造血系細胞株の細胞膜上に発現させ、高価なサイトカインの代わりに安価な抗原の添加によって、増殖や分化を誘導する系の構築を進めてきた。 そこで、本年度は、キメラ受容体を用いてES細胞の造血前駆細胞への分化を誘導することを目指して研究を行った。細胞内ドメインとしてタイプIサイトカイン受容体4種類 (エリスロポエチン受容体, トロンボポエチン受容体, インターロイキン2受容体, IL-6受容体シグナル伝達サブユニットまたは受容体型チロシンキナーゼ4種類(マクロファージコロニー刺激因子受容体, 上皮成長因子受容体, インシュリン受容体, 幹細胞因子受容体) を持つキメラ受容体を構築した。 マウスES細胞から胚様体を形成させることで自発的な分化を誘導すると、胚様体形成後6日目において、造血系前駆細胞分画であるCD41陽性細胞が出現することが知られている。そこで、各種キメラ受容体を単独あるいは複数の組み合わせでES細胞に発現させ、特異的抗原としてフルオレセイン標識BSAを加えて胚様体形成を行い、6日目においてCD41陽性細胞分画の出現頻度をフローサイトメトリーで測定し、その結果を指標として、ES細胞から造血前駆細胞への分化に適した受容体シグナルの探索を行った。その結果、複数の受容体の組み合わせにおいて、CD41陽性細胞率がネガティブコントロールと比べて上昇する傾向が見られた。これらの組み合わせは共通して、タイプIサイトカイン受容体1種と受容体型チロシンキナーゼ2種の組み合わせであった。このことから、受容体型チロシンキナーゼとタイプIサイトカイン受容体シグナルのクロストークが血球系系譜への初期分化に重要であることが示唆された。
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