本研究では,心疾患への臨床試験へ展開されている心筋再生パッチ(大腿筋筋芽細胞および繊維芽細胞を含む積層シート)を対象に,工学的観点から細胞シートの品質向上に寄与する技術構築を目指してきた.本年度は,筋芽細胞と繊維芽細胞の混在比率の変化による複数のサイトカイン生成速度の変化について細胞挙動の観点から検討し,細胞の量だけではなく,細胞流動状態がサイトカイン生成に影響を及ぼすことを示した.また,間葉系幹細胞の混在が血管内皮細胞のネットワーク形成に影響を及ぼし,5層細胞シートの中層に間葉系幹細胞シートを導入し,人為的に棲み分けを与えると,その物理的障害により,内皮細胞の遊走を制限し,結果,ネットワーク形成を促進することがわかった.さらに,ガン細胞の混在による細胞流動に対する検討を行ったところ,ガン細胞は,筋芽細胞の遊走と比較し,細胞シート外では同等の遊走能を示したが,細胞シート内ではガン細胞の遊走が活性化されることが示された.本現象は今後更なる解明が必要であるが,組織内へのガンの転移メカニズムの解明に寄与する可能性を示した. 一方,単層の細胞シートにおいて内皮ネットワーク形成は困難で複数層において検討を行ってきた.そこで,細胞流動にかかわる要因が主たる原因と考え,単層シート内の細胞密度や内皮細胞播種量,培地成分の改良を行い,単層シート内でネットワーク形成を行うことを実現することができた.さらに,細胞シート内での細胞挙動を表現するシミュレータ構築においても,順調に進捗しネットワーク形成を表現できる状態を構築した.
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